カーマ(古代インドの愛の神)(読み)かーま(英語表記)Kāma

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

カーマ(古代インドの愛の神)
かーま
Kāma

古代インドの愛の神。元来サンスクリット語の「意欲」という意味の普通名詞であったものが、しだいに「愛欲」とか「性愛」という意味に狭められ、固有名詞として愛の神となった。サンスクリット文学ではオウムにまたがる美男子とされ、左手にはミツバチの群がるサトウキビの弓を持ち、右手にはそれぞれ「悩ます」「焦がす」「迷わす」「攪乱(かくらん)する」「酔わす」と名づけられた5本の矢を持ち、これで若い男女の心を射って恋情(れんじょう)をかき立てる。イルカをそのしるしとし、また花の弓矢を携える者ともいわれる。あるとき彼は妻のラティ(悦楽)と友人のバサンタ(春)を伴い、ヒマラヤ山中で苦行に励んでいたシバ神を誘惑しようとしたが失敗し、神の怒りに触れてその第三の目から発した火により焼き殺される。しかしシバ神はラティの願いを受け入れて、彼をアナンガ(形なきもの)として人々の心のなかに再生させたという。

[原 實]

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