Weber-Christian病

内科学 第10版 の解説

Weber-Christian病(リウマチ性疾患)

定義・概念
 Weber-Christian病は小葉性脂肪組織炎により,発熱皮下結節出没を繰り返す原因不明の全身性炎症性疾患であり,再発性熱性結節性非化膿性脂肪組織炎と称される.きわめてまれな疾患であり,わが国では400例以上の症例報告はあるが,有病率に関する報告はない.男女比は約1:2で,20~40歳代に発症する.診断には基礎疾患に続発する脂肪織炎との鑑別が重要である.
病理
 本症の初期の組織像は,小葉性脂肪組織における好中球優位でリンパ球マクロファージを伴う炎症細胞の強い浸潤と脂肪変性が特徴的である.その後,浸潤マクロファージは変性脂肪を貪食し,泡沫細胞となり脂肪肉芽腫を形成する.慢性期には浸潤細胞は線維芽細胞に置換され,小肉芽腫は線維化される.脂肪組織炎の部位は皮下脂肪組織の頻度が高いが,腸間膜,大網,後腹膜,心臓周囲,腎臓周囲などあらゆる脂肪組織に認められる.
臨床症状
 発熱と有痛性の皮下結節が特徴的である.発熱は朝低く,夕に高い弛張熱で,全身倦怠感,関節痛,筋肉痛を伴うことが多い.皮下結節は小豆大から手掌大で,通常発赤を認め,局所の熱感と圧痛を認める.好発部位は四肢であるが,腹部胸部,顔面にも出現する.結節性病変の炎症は寛解,増悪を繰り返し,最終的に皮膚に萎縮性の陥凹を残す.また,腸間膜や大網,内臓周囲の脂肪織に高度の炎症を伴うことがある.心臓や肺周囲の脂肪織に炎症が及ぶと心外膜炎,血痰,呼吸困難などが出現し,腹部脂肪織に炎症が及ぶと下痢腹痛,腹水貯留など多彩な症状が出現し,診断に難渋する.
検査成績
 本症では赤沈亢進,CRP高値,貧血など高度の炎症所見を認めるが,特異的な検査はない.白血球数は病態により上昇する場合と減少する場合がある.血小板減少は播種性血管内凝固症の前兆として注意が必要である.また,脂肪代謝障害に伴い,血清コレステロール値の変動,肝機能障害がみられることがある.
鑑別診断
 皮下脂肪織炎をきたす疾患として結節性紅斑との鑑別が重要である.結節性紅斑は下腿前面に出現することが多く,3〜4週間の経過で自然退縮し,通常瘢痕を残さない.病理学的には中隔性脂肪組織炎である.また,深在性エリテマトーデス,膵臓疾患に伴う皮下結節性脂肪壊死,悪性リンパ腫,αアンチトリプシン欠損症において本症と類似の皮下結節を呈することがある.
経過・予後
 脂肪織炎が皮膚に比較的限局している場合では経過は良好であるが,炎症が全身に広がると播種性血管内凝固症,敗血症,消化管穿孔・出血などの合併症を引き起こし,予後が悪い.おもな死因は感染症,出血,多臓器不全である.
治療
 本症の治療は確立していないが,急性期にはステロイド療法が基本となる.皮膚に限局している場合は少量のステロイドを投与し,全身症状の強いときは大量投与,パルス療法を行う.ステロイドの効果がみられないときはシクロスポリンアザチオプリンなどの免疫抑制薬を併用する.また,本症は慢性に経過するため,長期間のステロイド治療による副作用に留意する必要がある.[杉山英二]
■文献
Panush RS, Youker RA, et al: Weber-Christian disease. Medicine, 64: 181-191, 1985.
武田克之,滝脇弘嗣:Weber-Christian 病.日本臨牀,51増刊:1044-1049, 1993.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報