電荷移動反応(読み)デンカイドウハンノウ

化学辞典 第2版 「電荷移動反応」の解説

電荷移動反応
デンカイドウハンノウ
charge-transfer reaction

電荷交換反応(charge-exchange reaction)ともいう.正または負のイオンと中性原子または分子との反応により,電荷がイオンから中性粒子に移動する反応.溶液反応,とくに無機化学反応では普通の反応である.孤立系の反応は,質量分析計で測定されるイオン-分子反応一種である.電荷移動反応は単に電荷だけが移動する過程と,電荷移動に伴って二次イオンが解離する過程の2種類があり,そのおのおのについて共鳴過程と非共鳴過程に分類される.共鳴電荷移動過程は,反応熱が0または0に近く,イオンの運動エネルギーが小さいほど反応断面積が大きく,熱エネルギーイオンでは 10-15 cm2 にもなる.一方,非共鳴過程では,イオンの運動エネルギーが小さいときは反応断面積が小さく,イオンのエネルギーが増加するとともに増加する.理論的にはhEl/vで断面積最大となり(ここで,hプランク定数,ΔEは反応熱,vは反応系の相対速度,lは“断熱パラメーター”といい相互作用の長さで表す),それ以上のエネルギーで減少する.電荷移動反応の四つの例を示す.

(1)共鳴電荷移動

 解離を伴わない H2 + H2 → H2 + H2

 解離を伴う   N + CH4 → N + CH3 + H 

(2)非共鳴電荷移動の例

 解離を伴わない Ar + CH4 → Ar + CH4 + 267 kJ mol-1  

 解離を伴う   Ar + CH4 → Ar+ CH3+H + 130 kJ mol-1  

負イオンの電荷移動反応は,電子親和力の小さい中性粒子の負イオンから大きい電子親和力をもった中性粒子に電子が移動し,一般に共鳴的である.イオン-分子反応ではないが,長寿命高励起原子から中性分子への電子移動も広い意味での電荷移動反応である.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報