日本大百科全書(ニッポニカ) 「隊商(ハウフの童話)」の意味・わかりやすい解説
隊商(ハウフの童話)
たいしょう
Die Karawane
ドイツの作家ハウフの創作童話。『1826年度童話年鑑』として発表された。砂漠を旅する隊商に1人の男が途中から加わり、休息の折々に彼と5人の商人が順番に物語をする、いわゆる枠物語の作品で、『千一夜物語』の影響がうかがえる。「こうのとりになったカリフの話」「幽霊船の話」「切り落とされた手の話」「ファトメの救出」「小さなムックの話」「にせ王子のメルヘン」の六編からなるが、「カリフの話」と「ムックの話」はしばしば独立した童話として扱われる。しかし六編のうち二編に、途中から仲間になる男、義賊オルバサンが登場し、「カリフの話」はほかならぬこのオルバサンが物語るのだから、本来はまとまった一つの作品として読むべきである。豊かな空想と伝奇的要素、異国趣味がみごとに一体となって作品の効果を高めている。
[関 楠生]
『高橋健二訳『隊商』(岩波文庫)』