門(夏目漱石の小説)(読み)もん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「門(夏目漱石の小説)」の意味・わかりやすい解説

門(夏目漱石の小説)
もん

夏目漱石(そうせき)の長編小説。1910年(明治43)3月1日から6月12日まで、東京・大阪の『朝日新聞』に連載。翌年1月、春陽堂刊。宗助(そうすけ)とお米は仲のよい夫婦だが、友人(安井)の妻を奪ったという過去をもつ。そして、社会から葬られ、日の当たらぬ場所でひっそりと生きてきたが、安井の消息を知って再会の不安におびえる。宗助は心の修行を求めて参禅するが、宗教の門はついに開かれなかった。姦通(かんつう)によって結ばれた夫婦の浄福と罪過を、小市民生活の鮮やかなリアリティーとともに描いている。『それから』の続編とも読めるが、夫婦の罪は社会に背いたことではなく、安井という他者を傷つけたことにあった。なお、宗助の参禅には作者自身の円覚寺での体験が利用されている。

三好行雄

『『門』(岩波文庫・旺文社文庫・角川文庫・講談社文庫・新潮文庫)』『桶谷秀昭著『夏目漱石論』(1972・河出書房新社)』

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