表土喪失(読み)ひょうどそうしつ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「表土喪失」の意味・わかりやすい解説

表土喪失
ひょうどそうしつ

風や雨水により表層土壌が侵食され、農耕地から失われること。アメリカの経済学者でアースポリシー研究所所長のレスター・ブラウンLester. R. Brown(1934― )によると、世界の耕地の約3分の1で表土が生成を上回るスピードで浸食されているという。表土喪失の原因としては、従来の家畜放牧作物輪作の農業形式から、現代の灌漑(かんがい)、化学肥料多投、大型機械の導入、商品作物の連作にみられる大規模粗放生産への移行が考えられる。表土の流失は生態系、食糧生産、洪水防止、水資源の保全に重大な影響を与える。表土喪失の結果、採算のとれなくなった農地は、山林、放牧地に転用され、さらにひどくなると放棄され、砂漠化することもある。近年は、アメリカや旧ソ連地域の大規模粗放生産の穀倉地帯や、中国での被害が深刻化している。ブラウンによればアメリカの表土流失は、かつては風が主因で1930年代から大平原地帯に集中してみられたが、1970年代に入ると穀物価格高騰を背景に、生産性を上げるため耕起が過剰に行われた結果、表土が雨水で浸食される水食が、コーンベルト地帯中西部を中心として著しく進行した。その結果、1980年代までに120万ヘクタールの表土に相当する30億トンもの土壌が流失したという。アメリカのほか、中国は世界でも表土の流失が深刻な国の一つで、乱開発による人為的な表土の流失は悪化しており、中国水利部の2009年の発表によれば、表土の流失面積は国土面積の37.1%に当る356万平方キロメートルで、毎年平均45億トンの土壌が失われ、約6万7000ヘクタールの耕地が被害を受けているという。

 表土喪失防止の対策としては、等高線栽培、帯状栽培、階段式栽培、有機質肥料施用、不耕起法、マルチング(土壌被覆)などが効果があるが、短期間では目に見える形で現れないことが多いだけに、長期的な計画、法規制、資金援助などが必要となる。アメリカの場合、農務省内に土壌保全局が設けられ、その対策の実施にあたっている。

[小山雄生]

『Lester R. BrownThe Earth Policy Reader(2002, W. W. Norton & Company, Inc., New York)』

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