血行力学的梗塞

内科学 第10版 「血行力学的梗塞」の解説

血行力学的梗塞(脳血栓)

(3)血行力学的梗塞(hemodynamic infarction)
定義・概念
 脳血管は灌流圧による供給と脳代謝による需要に応じて拡張収縮することにより対応し,局所脳血流を一定に保つ自動調節能(autoregulation)を有する(図15-5-12).脳主幹動脈が高度狭窄や完全閉塞しているが,その遠位の頭蓋内血管が限界まで拡張し局所脳血流を代償維持している状態に対し,血圧低下脱水により脳灌流圧が低下すると代償能力を超え,最も灌流圧の低い灌流終末・分水嶺領域に虚血が遷延し梗塞に至る(図15-5-13).これを血行力学的脳梗塞とよぶ.アテローム血栓性脳梗塞超急性期のペナンブラ領域の病態もこの血行力学的因子が強く関与し,全身血圧の低下が症状動揺や進行に相関する(図15-5-10).
臨床症状
 脱水や貧血,心拍出量低下や全身血圧低下などによる脳灌流圧の低下時に,一過性または進行性の意識障害,言語障害,運動麻痺や短時間の不随意かつ粗大で不規則な震える運動(limb shaking)を呈する.
診断
 脳灌流圧が低下したときに脳虚血症状が起き,かつ責任血管の有意狭窄や閉塞とその灌流領域の低灌流を示す.脳CTおよびMRIでは,いわゆる分水嶺(中大脳動脈と前大脳動脈,または後大脳動脈との灌流境界)に帯状の梗塞巣が生じる(図15-5-13).低灌流のため動脈からの小塞栓子でもwashoutされず多発性分水嶺塞栓をきたすこともある.また,側副血行路からの逆行血流が優位になると主幹動脈内に血栓が停滞し,ここからの血栓化進展による広範囲の脳血管閉塞に至ることもありうる(図15-5-10).
 急性期ペナンブラでは,MRIにおける拡散強調画像高信号域が血管支配領域の一部にしか認められないにもかかわらず,①灌流強調画像における平均灌流時間(mean transit time)遅延が広範囲である乖離(diffusion/perfusion mismatch),②MRAでの基幹部の動脈閉塞との乖離(diffusion/MRA mismatch),③重篤な臨床症状との乖離(diffusion/clinical mismatch)を呈する(図15-5-10).発症3週間以降経過した時期では,脳血流定量SPECT検査で,灌流領域の安静時脳血流が正常値の80%以下,血管拡張作用のあるアセタゾラミド負荷後の血流増加が10%以下かむしろ減少する(脳内盗血現象)所見を得る(図15-5-13DE).ポジトロンCTでは,同部位の局所能血流の低下と酸素摂取率の上昇(貧困灌流状態(misery perfusion)とよぶ)が観察され,病態を理解するのに有益である.[大槻俊輔・松本昌泰]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報