自我本能(読み)じがほんのう(英語表記)Ichtriebe[ドイツ]

改訂新版 世界大百科事典 「自我本能」の意味・わかりやすい解説

自我本能 (じがほんのう)
Ichtriebe[ドイツ]

S.フロイトの用語。従来〈自我本能〉と訳されてきたが,Trieb(英語ではdrive)の原義からいって〈自我衝動〉ないし〈自我欲動〉とするのが正確である。フロイトは正常人の知覚や学習の現象を研究していた彼以前の心理学者と異なり,臨床医だったので,神経症を問題にした。神経症を説明するためには,葛藤概念が不可欠であり,葛藤の起源を考えなければならなかった。そこで彼は生物学から個体保存本能と種族保存本能の概念を借用し,前者を〈自我本能〉,後者を〈性本能(性衝動,性欲動)〉と呼び,両者対立が神経症の病因的葛藤であると考えた。つまり,〈性本能〉は快楽原則に従ってひたすら快感を求め,現実を無視し個体の安全を脅かすので,〈自我本能〉が現実原則に従って〈性本能〉を抑圧する。この抑圧された〈性本能〉のエネルギー,すなわちリビドーが歪められた形で表れたのが神経症の症状である。要するに〈自我本能〉は摂食排泄,知覚など個体保存のための活動を支える本能であるが,リビドーが自我に備給されるナルシシズムの概念の導入によってあいまいさが生じ,〈自我本能〉と〈性本能〉の二元論はのちに〈生の本能〉と〈死の本能〉の二元論へと移ってゆく。
性欲
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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