美術手帖(読み)びじゅつてちょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「美術手帖」の意味・わかりやすい解説

美術手帖
びじゅつてちょう

月刊美術専門誌。1948年(昭和23)1月に美術出版社より創刊された。通常号のほか美術学校案内、年鑑など年に数冊の増刊号も刊行している。「いわゆる〈美術〉、あるいは〈芸術〉のみならず、はばひろい表現活動の今日的相貌を、激動する時代の基底部に照射しつつとらえる」(『美術出版社図書目録』より)ことを編集方針に、長らく日本の美術ジャーナリズムの中心を担ってきた。

 創刊時、先行の姉妹誌『みづゑ』(1992年(平成4)に休刊後、2001年に復刊、2007年に休刊)がグラフ主体の大型誌であったため、A5判の小型誌型と活字中心の誌面構成とする方針が固められる。創刊号には当時の画壇の大家安井曽太郎(そうたろう)の口絵岡鹿之助(しかのすけ)や批評家の富永惣一(1902―1980)らの文章が掲載され、また第2号から「西洋美術略史」の連載がスタートするなど、当初は趣味的な内容であったが、徐々に展評や作家インタビューのページが増え、またその1年間の動向を回顧するアンケート企画をスタートさせるなど、ジャーナル的な性格を強くしていく。また同じく姉妹誌の『美術批評』(1957年に休刊)に寄稿していた針生(はりう)一郎、瀬木慎一(1931―2011)、東野芳明(とうのよしあき)、中原佑介らの若手評論家を執筆者として積極的に起用し、現代美術の専門誌として定着していった。同誌のオピニオン誌的な性格は1960年代末、赤瀬川原平が「千円札の模型」を制作して起訴された「千円札裁判」を大きく取り上げたばかりか、当時の編集長が出廷、赤瀬川作品を擁護する意見陳述を行ったエピソードにも示されている。またメディアの発達した1970年代後半以降は海外の最新情報の紹介に多くの誌面を割くようになり、1980年代前半にはニュー・ペインティングを、同じく後半にはシミュレーショニズムをいち早く紹介し、日本においてこの動向が展開される先鞭を付けた。反面、オフセット印刷の導入などによるカラーページの増大は誌面の情報誌化を促し、図版や情報欄が増えると同時に長編評論の掲載ページは減少、創刊600号を記念して「BT」の頭文字が記されるようになった1988年10月号以降、その傾向は一層顕著なものとなった。

 刊行時期に開催されている注目度の高い展覧会に即して特集を組むことが多く、写真、映像、演劇、建築などの境界領域を取り上げることも少なくない反面、現代美術専門誌という性格上、美術といえども画壇・公募展系の話題は一切扱わない。雑誌の休廃刊が多い美術ジャーナリズムにあって、安定した刊行実績をもつ同誌への信頼は厚く、情報源として多くの読者に重宝されているが、数年単位での編集方針の変更も指摘される。

[暮沢剛巳]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

デジタル大辞泉プラス 「美術手帖」の解説

美術手帖

日本の美術専門誌。1948年創刊。近現代美術を中心に、国内外の最新のアート情報を紹介。隔月刊。

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