細胞膜ホルモン受容体異常症の遺伝子変異

内科学 第10版 の解説

細胞膜ホルモン受容体異常症の遺伝子変異(ホルモン受容体異常症)

(1)細胞膜ホルモン受容体異常症の遺伝子変異(表12-12-1)
a.視床下部ホルモン受容体
 成長ホルモン放出ホルモン(growth hormone rele­asing hormone:GHRH)受容体異常症はホモ接合体変異により低身長を,性腺刺激ホルモン放出ホルモン(gonadotropin-releasing hormone:GnRH)受容体異常症は複合へテロ接合体変異により低ゴナドトロピン性性腺機能低下症を,甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin-releasing hormone:TRH)受容体異常症は複合へテロ接合体変異により先天性中枢性甲状腺機能低下症をきたす.メラノコルチン4型受容体(MC4R)は常染色体優性あるいは劣性遺伝様式により過食を伴う肥満を発症し,欧米では高度肥満の数%に認められると報告されている.
b.下垂体前葉ホルモン受容体
 甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone:TSH)受容体の不活性型変異はホモあるいは複合型へテロ接合体変異によりTSH不応症となり,先天性あるいは成人発症の甲状腺機能低下症の原因となる.逆に活性型変異では,体細胞変異によりPlummer病を発症する例が多く報告されており,胚細胞変異であれば先天性甲状腺機能亢進症となる.黄体形成ホルモン(luteinizing hormoneLH)受容体は不活性型変異により男性仮性半陰陽や原発性無月経を,活性型変異では逆に男性思春期早発症をきたす.卵胞刺激ホルモン(follicle stimulating hormone:FSH)受容体の不活性型変異では高ゴナドトロピン性の精子形成不全や卵巣機能不全を起こす.活性型変異は1例のみ報告されており,ゴナドトロピン非依存性に精子形成が可能であった.副腎皮質刺激ホルモンadrenocorticotropic hormoneACTH)受容体では不活性型変異が報告されており,新生児期あるいは幼少期よりACTH不応による副腎皮質機能低下症を発症する.
c.下垂体後葉ホルモン受容体
 バソプレシンアルギニンバソプレシン(arginine vasopressin:AVP)または抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone:ADH))受容体のうちV2受容体遺伝子はX染色体上に局在し,不活性型変異により伴性劣性遺伝形式をとる先天性腎性尿崩症となる.現在までに100家系以上が報告されている.活性型変異も1家系報告されており,血中ナトリウム濃度や血漿浸透圧は低値で抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone:SIADH)様の症候を呈するが,AVP濃度はきわめて低値であった.
d.副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)
受容体
 PTH/PTH関連蛋白(PTHrP)受容体遺伝子には不活性型と活性型の変異が報告されている.不活性型変異ではホモ接合体変異により軟骨性骨早熟を呈するBlomstrand型軟骨異型成症となる.活性型変異はヘテロ接合体変異により副甲状腺ホルモン非依存性に高カルシウム血症を呈するJansen型骨幹端軟骨異形成症に認められる.また,PTH受容体後の異常に基づく疾患として偽性副甲状腺機能低下症があげられる.PTH受容体からアデニル酸シクラーゼに情報を伝達するGs蛋白活性の低下を認めるⅠa型,アデニル酸シクラーゼのcatalytic unitの異常が想定されるⅠc型,これらに異常を認めないⅠb型に細分されるが,いずれも低カルシウム血症や高リン血症などの副甲状腺機能低下状態を呈する.
e.Ca感知受容体
 Ca感知受容体遺伝子にも不活性型と活性型の2種類の変異が報告されている.不活性型変異は常染色体優性あるいは劣性遺伝により家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症および新生児重症原発性副甲状腺機能亢進症を呈する.活性型変異は常染色体優性遺伝により家族性原発性副甲状腺機能低下症となる.
f.βアドレナリン受容体
 アメリカ・アリゾナ州のピマインディアンにおいてβ3アドレナリン受容体コドン64のトリプトファンからアルギニンへの変異が肥満,熱産生異常,メタボリック症候群と関連すると報告されている.
g.インスリン受容体異常症
 leprechaunism,Rabson-Mendenhall症候群,type Aインスリン抵抗性糖尿病に分類される.先に述べた順に幼小児期に発症し,重症である.type Aインスリン抵抗性糖尿病は黒色表皮腫を合併し,インスリンへの抵抗性はさまざまである.遺伝子異常の報告の多くは複合型へテロ接合体である.
h.成長ホルモン受容体異常症
 成長ホルモン(growth hormone:GH)不応症のために低身長をきたす.ホモあるいは複合型へテロ接合体が多く報告されているが,ヘテロ接合体でドミナントネガティブ作用により低身長となる例も報告されている.
i.レプチン受容体異常症
 過食による高度肥満に中枢性性腺機能低下症を伴い常染色体劣性遺伝様式による2家系が報告されている.[杉山 徹・小川佳宏]
■文献
DeGroot LJ, Jameson JL, et al: Endocrinology, 6th ed, W.B. Saunders, 2010.
Larsen PR, Kronenberg HM, et al: Williams Textbook of Endocrinology, 10th ed, Wilson Churchill Livingstone, 2002.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報