紫斑病性腎炎

内科学 第10版 「紫斑病性腎炎」の解説

紫斑病性腎炎(全身疾患と腎障害)

定義
 Henoch-Schönlein紫斑病IgA免疫複合体が関与する全身性血管炎である.隆起性の点状出血や紫斑が主症状であり,関節痛,腹部症状(腹痛下血),腎炎を加えた4主徴が特徴である.Henoch-Schönlein紫斑病で生じた腎炎を紫斑病性腎炎とよぶ.
病因
 Henoch-Schönlein紫斑病の多くは,上気道炎後に発症する.多種類の病原体や薬剤,環境因子が誘因となる.Henoch-Schönlein紫斑病や紫斑病性腎炎では血清IgAやIgA免疫複合体が上昇し,障害された組織にIgAの沈着が認められることから,IgAを中心とした粘膜免疫反応が病態に深く関与していると考えられる.近年,IgA腎症と同様,紫斑病性腎炎でIgA1分子のヒンジ部の糖鎖不全が報告された.腎炎を発症していないHenoch-Schönlein紫斑病ではIgA1ヒンジ部糖鎖構造は健常人と変わりないことが示されており,紫斑病性腎炎では血中の糖鎖不全IgA1の増加に伴い,免疫複合体の形成やメサンギウム領域への沈着が生じ,糸球体腎炎が惹起されると想定されている.IgA腎症と同様に,紫斑病性腎炎の同胞では血中の糖鎖不全IgA1が増加しており,発症機序に遺伝要因が関与していると考えられている.
疫学
 Henoch-Schönlein紫斑病は小児に生じやすく,10歳以下の発症が大半を占める.やや男性に多い.紫斑病性腎炎は紫斑病を有する小児の16〜50%に,成人の49〜78%に認められる.また紫斑が持続する症例は紫斑病性腎炎が生じやすいとされる.小児では腎障害が軽度であることが多いが,成人ではネフローゼ症候群や高血圧,急性腎障害が多いとされ,約1/3は発症初期に腎機能低下が指摘される.
臨床症状
 Henoch-Schönlein紫斑病の病態は細小動脈,毛細血管,細小静脈の全身性血管炎であり,特に後毛細管細静脈の白血球破壊性血管炎(leukocytoclastic vasculitis)が主体である.症状は,紫斑はほぼ全例に認められるが,関節痛,腹痛,腎炎,消化管出血,痙攣などが生じ得る.①紫斑はほぼ100%に認められ,下肢や臀部に生じやすい【⇨14-11-8)】.②関節痛は約75%に生じる.おもに膝関節や足関節の関節炎による.③腹部症状は50〜75%で生じ,腹痛,嘔吐,消化管出血などが生じ得る.④紫斑病性腎炎は,皮膚症状が出現してから数日から数週間後に発症する.紫斑病性腎炎を発症した多くの症例が血尿を呈し,肉眼的血尿は成人の約10%でみられる.30〜50%の症例は急性腎炎症候群示し浮腫や高血圧が認められる.また20〜45%の症例でネフローゼ症候群,14〜25%で腎機能障害を呈するとされる.全身症状の程度と糸球体病変とは必ずしも一致しないが,蛋白尿の程度は糸球体での半月体形成(活動性)を反映している.
病理・分類
1)光顕所見(図11-6-10):
メサンギウム細胞の増加とメサンギウム基質の増生が種々の程度でみられる.また半月体形成もみられ病変の活動性を反映している.糸球体係蹄内に多核白血球・単核球がみられたり,壊死病変も認めることがある.組織学的重症度はおもに半月体形成の程度を考慮した国際小児腎臓病研究班(International Study of Kidney Disease in Children: ISKDC)分類が使用される(表11-6-6).グレードⅡ(メサンギウム増殖のみ)あるいはⅢ(巣状またはびまん性のメサンギウム増殖で,半月体を伴う糸球体は50%以下)の頻度が多い.
2)蛍光所見(図11-6-11):
メサンギウム領域のIgAの沈着が特徴であり,糸球体係蹄壁にも沈着が認められることがある.
3)電顕所見:
IgAの沈着に相当する高電子密度沈着物がメサンギウム領域に,ときに内皮下に存在する.
鑑別診断
 小児では紫斑,腹痛,関節痛を伴えば紫斑病性腎炎と比較的容易に診断が可能である.成人ではANCA関連血管炎,ループス腎炎クリオグロブリン血症,過敏性血管炎などと鑑別が必要になる.多くのANCA関連血管炎は血清学的にANCAが陽性であり,またメサンギウム増殖性病変や管内細胞増多は乏しい.IgA腎症とは腎生検所見から鑑別することはできず,その他の臨床所見から診断する.
予後
 多くの紫斑病性腎症は短期的には予後は良好であるが,再発がしばしば認められる.尿異常が持続する症例では,長期的に腎機能障害が進展する可能性がある.成人では15年の経過で10〜30%の症例が末期腎不全に至ると報告されている.ネフローゼ症候群,高血圧,50%以上の半月体形成,尿細管間質の線維化などが予後不良因子である.
治療
 活動性のある腎障害が疑われる場合は,腎生検で組織障害度を評価して治療方針を決定する.軽症例では抗血小板薬や抗凝固薬が主体となるが,半月体形成など重症例ではメチルプレドニゾロンのパルス療法に続いて経口副腎ステロイド薬が投与される.免疫抑制薬の併用や血漿交換が行われることもある.[後藤 眞・成田一衛]
■文献
Jennette JC, Olson JL, et al: IgA nephropathy and Henoch-Schönlein purupura nephritis. In: Heptinstall’s Patholgy of the Kidney, pp462-486, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2007.
Lau KK, Suzuki H, et al: Pathogenesis of Henoch-Schönlein purpura nephritis. Pediatr Nephrol, 25: 19-26, 2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「紫斑病性腎炎」の解説

紫斑病性腎炎
しはんびょうせいじんえん
Purpura nephritis
(子どもの病気)

どんな病気か

 血管性紫斑病(けっかんせいしはんびょう)(アレルギー性紫斑病)に合併する腎炎です。

原因は何か

 免疫学的機序(仕組み)による全身の血管炎があり、その一環として腎炎が起こると考えられます。

症状の現れ方

 血管性紫斑病は幼児から小学生に好発し、手足の紫斑、腹痛(腸管出血)、関節痛を訴えます。4週以内に30~60%に腎炎が発症します。尿異常だけで、全身症状はない例が多いのですが、肉眼的血尿、急性糸球体腎炎(しきゅうたいじんえん)症候群ネフローゼ症候群で発症する例もあります。

検査と診断

 臨床経過から診断は容易です。腎組織はIgA腎症と区別のつかない所見がみられます。

治療の方法

 腎炎の発症を予防する方法はありません。腎炎の程度に応じ、他の慢性糸球体腎炎と同じ方針で治療します。尿所見が軽い場合では大多数が治りますが、急性腎炎症候群やネフローゼ症候群で発症する場合では腎不全に至るものもあります。

病気に気づいたらどうする

 血管性紫斑病は、症状も腎炎の程度もさまざまです。かかりつけの医師に経過をみてもらいながら、症状や尿所見の変化に応じて、治療方針を相談するのがよいでしょう。症状が激しい時は入院治療が必要です。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報