煤煙(森田草平の小説)(読み)ばいえん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「煤煙(森田草平の小説)」の意味・わかりやすい解説

煤煙(森田草平の小説)
ばいえん

森田草平長編小説。1909年(明治42)1月1日~5月16日、『東京朝日新聞』に発表、改稿され4分冊で金葉堂、如山堂、新潮社より刊行(1910~13)。ダンヌンツィオの『死の勝利』の影響のもとに、平塚らいてうとの心中未遂事件に材をとった自伝小説妻子ある小島要吉は退廃的な生活を送っていたが、自我に目覚めた「新しい女」真鍋朋子(まなべともこ)に新鮮な魅力を抱く。要吉は、朋子を理想化し絶対化したあげく自分のものにしようとするが、その情熱に反し朋子は不可解な言動でこたえようとする。自我と愛欲の渦巻く男女の激しい葛藤(かっとう)のすえ、2人は死によってそれを超越しようとして雪の山中に赴くのであった。作者の文壇出世作。夏目漱石(そうせき)の『それから』に影響を与えた。

[石崎 等]

『『日本現代文学全集41 森田草平他集』(1967・講談社)』

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