火の国(読み)ひのくに

日本大百科全書(ニッポニカ) 「火の国」の意味・わかりやすい解説

火の国
ひのくに

「肥の国」ともいう。現在の長崎、佐賀、熊本の3県を含む地域を、古くは火の国と称した。『日本書紀』によれば、景行(けいこう)天皇は不知火(しらぬひ)に導かれて、八代県(やつしろのあがた)の豊村に上陸することができたことから、その国を「火の国」と名づけたという。『肥前国風土記(ふどき)』では、肥君(ひのきみ)の祖、健緒組(たけおぐみ)が白髪山に降る不知火を見て土蜘蛛(つちぐも)を退治したことから、この地名はおこるといっている。有明(ありあけ)、不知火の海に臨む地域で、農耕のみならず、山の幸、海の幸に恵まれた土地であったから、火(肥)君らを中心とした大豪族の基盤となった。また有明、不知火に臨む地域は独自の装飾古墳の分布地としても有名である。持統(じとう)天皇10年(696)の条に肥後国とあるので、天武(てんむ)・持統朝ころ、火の国は肥前・肥後の2国に分国したと思われる。ちなみに火を肥に改めるのは火を忌み、豊穣を祈る思想によるものであろう。

[井上辰雄]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例