梅の由兵衛物(読み)うめのよしべえもの

改訂新版 世界大百科事典 「梅の由兵衛物」の意味・わかりやすい解説

梅の由兵衛物 (うめのよしべえもの)

歌舞伎狂言人形浄瑠璃の一系統。大坂聚楽町の梅渋吉兵衛という悪党が,天王寺屋の丁稚長吉を殺し金を奪ったことに拠る。事件は1689年(元禄2)のことといわれ,翌90年1月には大坂岩井半四郎座の歌舞伎で演じられている。その後《梅由兵衛命代金(かわせきん)》(1728年12月大坂関三十郎座)で,主を救う刀代に窮した由兵衛が,女房お吉の弟長吉を殺す設定が作られ,《遊君鎧曾我》(1736年1月江戸中村座)は,初世沢村宗十郎の俠客の由兵衛が大当りを取り,その扮装が後に継承される。これ以後江戸では曾我狂言と結びついて,《男伊達初買曾我》(1753年1月中村座)等の諸作が生まれた。浄瑠璃には,《梅屋渋浮名色揚》(1730年2月以前か,大坂竹本座)や,その改作《茜染野中の隠井》(1738年10月大坂豊竹座)がある。これらの先行作をうけて《隅田春妓女容性(すだのはるげいしやかたぎ)》(1796年1月江戸桐座)が作られ,由兵衛物の代表作となった。
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