悪性腫瘍に伴う水電解質異常

内科学 第10版 の解説

悪性腫瘍に伴う水電解質異常(悪性腫瘍と腎障害)

(1)悪性腫瘍に伴う水電解質異常
a.カルシウム異常
 高カルシウム血症は悪性腫瘍における重篤な合併症であり予後不良を意味する.悪性腫瘍の経過中に20〜30%の患者において出現し,腎癌,非小細胞肺癌多発性骨髄腫白血病,乳癌などでみられる.高カルシウム血症の症状は病気の進行や薬の副作用と混同されることもあるが,一般に口渇,多飲,多尿,食欲不振,意識障害,疲労感などである.高カルシウム血症の機序として腫瘍による骨の分解,癌細胞からのPTH関連ペプチドの分泌,特にリンパ腫ではビタミンDの分泌亢進などが考えられている.高カルシウム血症の治療として,補液とループ利尿薬の投与,ビスホスホネートの投与が行われる.
 低カルシウム血症は通常数%程度のわずかな出現率であるが,骨転移がある場合は約16%にみられるとされている.低カルシウム血症の症状はテタニー,不整脈などであり,機序として骨転移による骨へのカルシウムの取り込み増大や後述する腫瘍崩壊症候群,高カルシウム血症に対するビスホスホネート投与などによるとされている.低カルシウム血症の治療は原因により異なるが原因薬剤の中止とカルシウムの投与が必要である.
b.ナトリウム異常
 syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone (SIADH)による低ナトリウム血症が認められる.SIADHによる低ナトリウム血症の1/3は癌患者に起こるともいわれており,特に肺癌にみられることが多い.癌細胞からのADH様ホルモンの分泌が原因とされている.また,抗腫瘍薬の副作用としても起こる.症状は食欲不振,悪心,脱力,意識障害などがみられる.治療は飲水の制限,ループ利尿薬,デメクロサイクリンの投与が行われる.[山辺英彰]
■文献
Cohen EP ed: Cancer and the Kidney. Oxford University Press, 2011.Glassock RJ: Other glomerular disorders and antiphospholipid syndrome. In: Comprehensive Clinical Nephrology (Floege J, Johnson RJ, et al ed), pp335-343, Elsevier, St.Louis, 2010.
新田孝作:腎障害をきたす全身性疾患―最近の進歩 悪性腫瘍と腎障害.日内会誌,100: 1330-1335, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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