改訂新版 世界大百科事典 「恵(吉)方」の意味・わかりやすい解説
恵(吉)方 (えほう)
陰陽道(おんみようどう)で歳徳神(としとくじん)がいる方角。兄方,得方などとも書き,〈明きの方(あきのかた)/(あきのほう)〉ともいう。その年の〈よろず良し〉という大吉の方角である。歳徳神はその年の干(かん)に当たる方角にいるとされるが,五行説では十干を陰陽に分け,甲丙戊庚壬を陽,乙丁己辛癸を陰とし,陽の干は陽徳といって徳があり,陰干は徳がないとする。そこで陰干はそれぞれ陽の干に割りあてられ,たとえば己(つちのと)の年は甲(きのえ)の方角,すなわち寅卯の間に歳徳神がいるとされる。恵方のことをとくに言い出したのは江戸時代以降といわれ,暦本の普及と相まって民間に浸透,歳神(としがみ)棚を恵方にしつらえたり,恵方に当たる社寺に初詣をする〈恵方参り〉,若水(わかみず)をくむにも自分の井戸が恵方に当たらぬときは,明きの方に当たる他所の井戸に行ってくむなどの習俗を生じた。
執筆者:和田 正洲
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報