宴曲集(読み)えんきょくしゅう

改訂新版 世界大百科事典 「宴曲集」の意味・わかりやすい解説

宴曲集 (えんきょくしゅう)

中世の歌謡集。早歌(そうが)の最初の撰集。1296年(永仁4)以前に成立。5巻5冊。50曲所収。撰者明空の作詞・作曲になるものが大部分だが,冷泉為相や金沢貞顕の作詞の曲もある。四季,賀,恋,雑上(付無常),雑下(付釈教)という部立をもつ。内容的にも,和歌漢詩の題や部立の名称を曲名にしたものが多く,詞章における和歌・漢詩などの引用も,後の作品に比べて目だつ。〈春〉〈夏〉〈秋〉〈冬〉の曲は,四季の刻々の変化を追って,その正常な運行を祈願する曲である。また,〈海道〉(京~鎌倉)の道行(みちゆき),〈伊勢物語〉〈山〉など,注目すべき曲も多く,早歌の展開の出発点をなす重要な集である。和文脈と漢文脈を融合した独自の律調をもつ新しい韻文がここに成立している。
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世界大百科事典(旧版)内の宴曲集の言及

【宴曲抄】より

…30曲所収,うち21曲は撰者明空の作詞(作曲は全30曲)。前の《宴曲集》に比べ〈熊野参詣〉(京~那智山),〈善光寺修行〉(鎌倉~信濃)の寺社への詳密な道行(みちゆき)や,身近な物によって仏を賛嘆する〈馬徳(うまのとく)〉〈松竹〉など,早歌の特色が十分発揮された集である。【外村 南都子】。…

【海道下り】より

…《海道記》《東関紀行》《義経記》などの海道下りが残るが,ことに《平家物語》およびその影響下に作られた《太平記》巻二〈俊基朝臣関東下向事〉などがよく知られている。一方歌謡には,鎌倉中期以降に流行した宴曲(えんきよく)を集めた《宴曲集》(1296成立)に載る〈海道〉上中下,室町時代の流行歌集《閑吟集(かんぎんしゆう)》(1518成立)の〈面白の海道下りや〉で始まる放下(ほうか)歌などが残っている。この放下歌の系統が,のちの芸能の中に伝承されているのであるが,中世の回国の芸能者である放下師(放下)を通してひろく諸国に伝わったのであろう。…

【明空】より

…武士階層の出身者か,あるいは初めから僧籍にあった者かも不明だが,外村久江説では,鎌倉極楽寺または三村寺と関係のあった僧侶で,早歌のもう一人の大成者月江(げつこう)と同一人物とされる。早歌の撰集16巻のうちの《宴曲集》《宴曲抄》《真曲抄》《究百集》《拾菓集》を撰し,上記の巻の所収曲120曲中,《春》など81曲を作詞,《秋》など111曲を作曲した。仏典,漢籍,国典に通じ,《応仁略記》に〈郢曲相伝に至っては,元祖明空以来七代の伝也。…

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