外科的処置(手術)による医原性疾患

内科学 第10版 の解説

外科的処置(手術)による医原性疾患(医原性疾患)

 外科的処置手術)による医原性疾患は,ほかの医療行為に比較すると発生しやすいと考えられる.すなわち,体に直接メスが加えられるのであるから,それだけ術後の傷害が発生しやすいといえる.しかしながら,その原因としては,医療過誤の類から,手術に伴う臓器損失あるいは機能障害によるものといった,ある程度やむを得ないものまで含まれる.いずれにしても,医療従事者は,その発生を防止するために最大限の注意を払う必要がある.
 内科領域においても,心臓カテーテル,内視鏡治療など手術と同様の治療(処置)は増加していくものと考えられるので,内科医にとっても,常に認識しておくべき事柄である.
(1)医原性疾患の原因
 手術に関連する医原性疾患の原因として,下記のものがあげられる.
1)誤認:
患者誤認,左右誤認など手術前の確認不足によるもの.医療過誤となる.注意義務を怠るという過失によるものであり,医療従事者は法的責任を問われる可能性がある.
2)技術的問題:
手術操作の間違い,手術関連機器の不具合など技術的な問題によるもの.過失の有無が問われる場合がある.
3)術中・術後合併症:
あらゆる手術において合併症頻度がゼロということはあり得ない.肺炎肺塞栓,心筋梗塞,脳梗塞など術野以外で発生するものもあれば,出血,縫合不全,手術部位感染(surgical site infection:SSI)など術野で発生するものもある.
4)術後障害:
手術に伴う臓器あるいは機能損失であり,特に悪性腫瘍に対する手術の際には,臓器損失が発生する.乳癌術後の上肢リンパ浮腫,胃癌術後の胃切除後症候群などがあげられる.術前より,発生してしまう可能性が予想できるものであり,医療過誤とは明らかに異なる.
(2)医原性疾患に対する具体的予防策
 医原性疾患は手術のどの段階(術前・術中・術後)でも起こりうることを医療従事者は常に念頭においておく必要がある.手術はリスクを伴う医療行為であり,事前の十分なインフォームドコンセント(IC)が重要であることはいうまでもない.手術の目的,治療効果,必要性をまず説明し,起こりうる合併症を概説する.また,術後早期だけでなく,予想される臓器損失あるいは機能障害による影響も付け加えて説明すべきである.患者が理解できる平易な用語を使うべきであり,よりよい理解が,無用なトラブルを未然に防いでくれる.外科的治療行為はいかなるものであっても,メリットのみならずデメリットが起こりうるものであることを,患者やその家族に前もって理解してもらうことが大切である.ただし,それらデメリットよりもメリットのほうが,患者にとって相対的に大きなものでなければならないのは自明の理である.
1)誤認の予防:
誤認は不注意から発生するものであるが,通常はそれが重なってはじめて,患者に障害を及ぼすことになる.患者取り違え,左右間違いなどは論外の誤認であるが,二重,三重のチェックを確立しておくことが重要である.特に,職種ごとに(医師看護師別々に)チェック機能があることが望ましい.手術後のガーゼなどの異物遺残も大丈夫だという思い込みが誤認を発生させてしまう.施設ごとに,術前チェック事項(手術部位,リストバンド着用など),手術室入室時確認事項(本人確認など)などを複数の医療従事者により確認するシステムを構築すべきである.全身麻酔などで,麻酔科医が関与する場合も同様である.麻酔においても,投与薬剤量のチェックは重要であり,同様に複数によって確認すべきものである.仮に1カ所で誤認されたとしても,複数のチェック機能により,患者に危害が及ぶ前の段階で未然に防げるシステムの確立が必須である.
2)技術的問題の予防:
技術問題はさまざまな要因によって起こりうる.術者の当該技術への不慣れ,使用器具の不具合などである.前者は指導医の指導が適切であったかどうかが,まず問われる.手術においては,術者はすべての手術において第一例目を経験する.経験を通じて技術を習得していくのが,外科においては通常なことであるので,これはやむを得ないことである.しかしながら,手術はそれぞれに難易度があり,徐々にステップアップしていくものである.術者たるものは,その過程において,シミュレーションやトレーニングを怠らないこと,また指導医は,術者の技術レベルを適切に見きわめることが肝要である.また,手術においては,どの領域においても解剖学的知識がことさら重要であり,それが未熟であるものは,責任ある治療行為を行ってはいけないと考える.
3)術中・術後合併症の予防:
術中・術後合併症については,起こりうる内容は術前に患者本人,御家族に説明しておくべきである.消化管術後の縫合不全は頻度こそ多くないものの,現状でゼロということはない.手術を担当するものは,そういった起こりうる合併症の頻度をより少なくする努力,工夫が必要であり,その責務を負う.万が一,術中に予期せぬ事態が発生した場合には,速やかに家族にその事態を伝えるべきであり,いたずらに長時間待たせるのは,無用の不信感を生むだけである.
4)術後障害の予防:
術後障害は,現時点ではやむをえないものであることが多い.患者が本来の疾患が治癒した代償として受け入れてくれるかどうかが重要である.そのためにも,術前の丁寧な説明が必要である.また,この克服は外科学の永遠の課題でもあり,真摯に取り組むべきものでもある.[瀬戸泰之]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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