地先漁場地元主義(読み)ちさきぎょじょうじもとしゅぎ

改訂新版 世界大百科事典 「地先漁場地元主義」の意味・わかりやすい解説

地先漁場地元主義 (ちさきぎょじょうじもとしゅぎ)

地先の漁場はその地元の村に占有利用させようという考え方。沿岸各村の漁業に対する依存度は多種多様で,ほとんど漁業のみに依存する専漁村からまったく漁業に依存しない純農村までいろいろあった。そのような差異は自然条件,市場条件などによって形成されたものであろうが,それは幕藩体制に組み入れられることによって制度的に固定化された。ところが商品経済の発展に伴う江戸時代中期以降の漁業生産の急速な発達過程で,さきに固定化された関係と現実の関係との間にギャップが増大した。かつて漁業を営んでいなかった沿岸村のなかから,新しく漁業を始めるものが多くなったからである。旧慣尊重を第一とした領主支配のもとで,新漁村の成立は旧漁村の反対を受けて容易でない場合も少なくなかったが,新漁村の成立は領主側でも,年貢増徴など歓迎すべき点があり,大勢は地先漁場地元主義の方向へ動いていったとみられ,この考え方は,明治以降現代にいたる水産行政のなかでも,可能なかぎり尊重されてきたように思われる。
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