吉田敦彦(読み)よしだあつひこ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「吉田敦彦」の意味・わかりやすい解説

吉田敦彦
よしだあつひこ
(1934― )

西洋古典学者、神話学者。東京生まれ。1957年(昭和32)、成蹊大学政治経済学部卒業。59年、東京大学大学院人文科学研究科(西洋古典学専攻)修了。フランス国立科学研究所研究員、ジュネーブ大学文学部講師、カリフォルニア大学ロサンゼルス校招待講師などを経て、70~75年成蹊大学文学部助教授、75~82年同教授、82年より学習院大学文学部教授、2001年(平成13)より同文学部長。90~93年同大学東洋文化研究所長を兼務

 日本神話とギリシア神話を中心とした比較神話論を専門とする。フランス滞在中にはジョルジュ・デュメジル師事。英語、フランス語の論文も数多く、『ブリタニカ百科事典』に執筆し、クロード・レビ・ストロースの構造論的神話研究に対し、堅実な資料と明晰な論理で批判するなど、神話学者として世界的に知られる。

 著作には日本を扱ったものに、古代神話を一般読者向けに説き明かした『日本の神話』(1990)、日本神話の形成過程を縄文弥生、古墳時代にわたって描く『日本神話のなりたち』(1992)、土偶や住居形態、アマテラス神話の分析などから古代日本における女神の様相を浮かび上がらせる『日本人の女神信仰』(1995)などがある。

 ギリシアを中心に論じたものに、平易な解説書『ギリシア・ローマの神話』(1982)、神話分析から文化解釈へと射程を広げた『ギリシャ文化の深層』(1984)、知られざるギリシア像を描いた『ギリシア人の性と幻想』(1997)などがあり、フロイトの「エディプス・コンプレックス」やジル・ドルーズとフェリックス・ガタリの『アンチ・オイディプス』L'anti Œdipe(1972)でも知られるギリシア悲劇の主人公オイディプスの謎を解き明かす『オイディプスの謎』(1995)は、十余年の歳月をかけた研究成果である。

 また、世界各地の神話分析から水と人間の関わりを考察する『水の神話』(1990)、諸制度の根源的禁制である近親相姦を神話分析によって解明する『神話と近親相姦』(1993)、各地の神話のエピソードを集めた『神話のはなし』(1999)、神話に登場する諸要素を平易に解説した『神話に学ぶこと』(2002)、太陽をモチーフとした神話を分析した『太陽の神話と祭り』(2003)などのほか、小中学生向けの図説『国際理解にやくだつ世界の神話』(2000)シリーズでは監修を務める。

 哲学奨励山崎賞(1980)、『ギリシャ文化の深層』を中心とする業績でサントリー学芸賞(1984)、『日本人の心のふるさと』(1990)で産経児童出版文化賞を受賞。

[織田竜也]

『『ギリシャ文化の深層』(1984・国文社)』『『神話と近親相姦』(1993・青土社)』『『日本人の女神信仰』『オイディプスの謎』(1995・青土社)』『『ギリシア人の性と幻想』(1997・青土社)』『『日本神話のなりたち』(1998・青土社)』『『水の神話』(1999・青土社)』『『神話のはなし』(2000・青土社)』『『神話に学ぶこと』『日本の神話』(2002・青土社)』『『太陽の神話と祭り』(2003・青土社)』『『ギリシア・ローマの神話――人間に似た神さまたち』(ちくま文庫)』『『日本人の心のふるさと』(ポプラ社教養文庫)』『吉田敦彦監修『国際理解にやくだつ世界の神話』1~7巻(2000・ポプラ社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例