協同組合国家(読み)きょうどうくみあいこっか

日本大百科全書(ニッポニカ) 「協同組合国家」の意味・わかりやすい解説

協同組合国家
きょうどうくみあいこっか

資本主義国家や全体主義的社会主義国家にかわる新しい国家構想のうち、産業組織としての協同組合基盤にして、それと地域的自治団体や多様な機能集団とが結合してつくられる新しい社会生活形態を協同組合国家という。協同組合では組合員は所有者であると同時に、経営者でもあり、また顧客でもある。このような考え方に基づいて、もし国家が協同組合的に組織されるなら、国民各人は主権者であると同時に、政治行政の管理者でもあり、また行政サービスの顧客ともなるであろう。そうした国家は、国民ひとりひとりが自由にして平等な直接民主制の実現形態そのものとなる。それゆえに、資本主義経済矛盾が人間生活のあらゆる領域に顕著に現れ始めた19世紀前半期に、まず消費協同組合が初めてイギリスに出現した。そしてその後、協同組合がほかの生活領域にも広がり、とりわけ生産者(労働者)協同組合を国家の財政的支援を得て確立し、資本主義社会の矛盾を止揚して社会主義社会を実現しようとする協同組合的社会主義論がラッサールによって1860年代初めに主張されたのである。それは「協同組合」国家論嚆矢(こうし)ともいえよう。マルクスはこの主張が当時現存のプロイセン王権を前提としている点を厳しく批判した。ところが、彼はパリ・コミューン論では、既存の国家機構を破壊したのちに、人民の直接民主制が実現された地域自治コミューンの連合体を基礎にして、産業組織としての協同組合を加えた未来の国家構想を示唆している。その構想は「協同組合」国家に近いといえよう。アナキズムを主張するクロポトキンの無権力社会における社会生活形態の構想も「協同組合」国家に近い。またイギリスのコール夫妻の主張するギルド社会主義論もこの「協同組合」国家論の系譜に属するものとみられよう。第二次世界大戦後の労働者自主管理国家論も同様である。

[安 世舟]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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