具・倶(読み)ぐす

精選版 日本国語大辞典 「具・倶」の意味・読み・例文・類語

ぐ‐・す【具・倶】

[1] 〘自サ変〙
① 必要なものがそろっている。欠けるものなく備わる。ととのう。
※宇津保(970‐999頃)蔵開上「万(よろづ)の書(ふみ)どもなどぐして皆ありや」
② 他の人に伴う。他の人に従って行く。うしろについて行く。連れだつ。
蜻蛉(974頃)上「下仕へ、手振りなどがぐしいけば、色ふしに出でたらん心ちして、いまめかし」
太平記(14C後)一七「問注所の信濃入道道大と土岐伯耆入道存孝と二人倶(グ)して候けるが」
③ 配偶者といっしょに暮らす。夫または妻としてつれそう。
※能因本枕(10C終)一〇三「いみじうほしうする人の、子生まで年比くしたる」
[2] 〘他サ変〙
① 必要な物をそろえる。備える。ととのえる。
※宇津保(970‐999頃)蔵開上「銀の衝重蘇枋長櫃に据ゑたる内の物ども皆ぐして藤壺に奉れ給ふ」
※中華若木詩抄(1520頃)上「大明眼を具したらんずる、高一看なる人に見せたらば」
② 物を添え加える。取り添える。
※竹取(9C末‐10C初)「かのたてまつる不死の薬に又壺ぐして御使にたまはす」
③ 物を持つ。携帯する。
※阿波国文庫旧蔵本伊勢物語(10C前)B「水のある所にて、〈略〉坏(つき)などもぐせざりければ、手にむすびて食はす」
④ いっしょに連れて行く。供として従える。
※竹取(9C末‐10C初)「つは物どもあまたぐして山へ登りけるよりなん」
⑤ 必要なことを申し添える。
※妾の半生涯(1904)〈福田英子〉九「中江栗原両氏に会ひて事情を具(グ)し、妾に其意なきことを謝(ことわ)りしかば」
[語誌](1)平安時代成立の漢語サ変動詞であり、語幹「具」は「複数の物がそろって完全なさま」を意味する。従って「具す」は(一)①や(二)①の意味が中核である。
(2)「物」だけでなく「人」を対象としても用いられた。特に他動詞において、平安中期までは「物」対象の用例が優勢であるが、平安後期以降「人」対象の用例が優勢となる。この人を対象とする用法は、(二)④のように支配的な立場にある者が従属する者をそろえる意から「従属者を率いる」ことをいうようになる。
(3)元来の用法は、漢文的文脈にのみ保持されて文章語的表現となった。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報