八尾(狂言)(読み)やお

日本大百科全書(ニッポニカ) 「八尾(狂言)」の意味・わかりやすい解説

八尾(狂言)
やお

狂言曲名。鬼狂言。河内(かわち)国(大阪府)八尾の里の男(ウソフキの面を着用)が冥土(めいど)へやってくる。地獄・極楽の分岐点である六道の辻(つじ)に差しかかると、閻魔(えんま)王(シテ、武悪(ぶあく)の面を着用)が待っていて、早速男を地獄へ責め落とそうと打ちかかるが、そのたびに男は、杖(つえ)の先につけた文を閻魔王の鼻面(はなづら)に差し出す。八尾地蔵から預ってきたという文の内容は「閻もじ参る、地」という恋文書式で始まり、この男は八尾地蔵を信奉する旦那(だんな)のゆかりなので極楽へ送り届けてほしい、とある。昔の恋人からの文にほだされて、閻魔王は男を極楽浄土へ道案内して終曲。八尾地蔵と閻魔王が男色の恋人関係にあったという奇想天外な設定は、地蔵信仰を反映しながらも、宗教の実相をからりと笑いとばす、いかにも狂言らしい発想である。

[油谷光雄]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例