人間の条件(五味川純平の小説)(読み)にんげんのじょうけん

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

人間の条件(五味川純平の小説)
にんげんのじょうけん

五味川純平(ごみかわじゅんぺい)の長編小説。全6巻。1956年(昭和31)8月から1960年1月にかけて三一書房刊。主人公の梶(かじ)は、徴兵を免れるため満州(中国東北)に渡り、軍需会社の鉱山の労務管理に従事していたが、特殊工人(中国人捕虜)の不当処刑に抗議した結果、憲兵対立拷問を受けたのち、召集され、ソ満国境の警備につく。ソ連軍との戦いで部隊は壊滅、梶は数名の兵と満州の曠野(こうや)を彷徨(ほうこう)し、捕虜となるが、脱走し、妻の美千子を求めてさまよい、雪に埋もれて死ぬ。侵略戦争というものの実体とその極限的な状況のもとでの人間的良心の問題を、作者の入隊、戦争、捕虜の体験を背景に探った戦争文学作品である。小林正樹(まさき)監督による映画化(1959~1961)は、全6部(2部ずつ3回に分けて公開)、総上映時間9時間30分余の大作として話題をよんだ。

磯貝勝太郎 2018年5月21日]

映画

日本映画。1959年(昭和34)~1961年。小林正樹監督。五味川純平の同名のベストセラー小説の映画化。脚色松山善三(まつやまぜんぞう)(1925―2016)、音楽木下忠司(きのしたちゅうじ)(1916―2018)、撮影はリアリズムで定評のある宮島義勇(みやじまよしお)(1909―1998)。1959年から1961年にかけて、第1部~第2部、第3部~第4部、第5部~第6部を、にんじんくらぶ松竹の資本提携で製作・配給。満州の鉱山会社に赴任した梶(仲代達矢(なかだいたつや)、1932― )と妻の美千子(新珠三千代(あらたまみちよ)、1930―2001)は、人道主義的な態度を貫こうとするが、凄惨(せいさん)な戦争の只中に投げ込まれ、妻とも離別を余儀なくされる。日本軍内部やソ連の捕虜収容所に抗して、梶は絶望的な闘いを挑み、ついに脱走する。雪原を放浪する梶は徐々に意識が混濁し、死んだ美千子の幻を見ながら絶命する。満州やソ連の場面を北海道のサロベツ原野の湿地帯や大雪原で撮影し、役者は泥や雪にまみれて演技をした。ソ連軍の戦車がやって来る場面では、札幌の自衛隊島松演習場で、穴にいる役者の頭上を戦車が通過する撮影を行った。仲代は実射をし、軍隊内のリンチ場面では、7、8人に思い切り殴られ、最後の死ぬ場面では10日で6キログラムやせて臨んだ。宮島=小林の過酷なリアリズムに貫かれた前代未聞の大作は、興行的にも批評的にも大成功を収め、全編で9時間半を超えるオールナイト興行は定番となった。人間的に生きた理想のヒーロー梶を演じた仲代は、本格的な俳優としての評価を確立する。ベネチア国際映画祭サン・ジョルジュ賞、イタリア批評家賞受賞。

[坂尻昌平 2018年5月21日]

『『人間の条件』全6冊(文春文庫)』

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