日本大百科全書(ニッポニカ) 「一念義・多念義」の意味・わかりやすい解説
一念義・多念義
いちねんぎたねんぎ
仏教用語。往生(おうじょう)の条件をめぐる対立意見。念仏はただの一遍唱えただけでも極楽(ごくらく)に往生できると説くのが一念義、数多く唱えねばならないと説くのが多念義で、法然(ほうねん)(源空(げんくう))門下でこの両説が分かれた。一念義については、浄土(じょうど)に往生することが可能だとしたことから逸脱して、どんな悪も往生の障りにならないという造悪無碍(むげ)が説かれ、邪義の代名詞のごとく用いられた。しかし一念義を唱えたとされる幸西(こうさい)のいう一念は、凡夫(ぼんぷ)が唱える念仏によって仏智(ぶっち)の一念が凡夫の信心と冥合(みょうごう)(一致)すると説くものであり、また親鸞(しんらん)を一念義の徒とするとしても、その一念は信心で、仏より賜るものと説くものである。
[石田瑞麿]