日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ワトソン(コンピュータ)
わとそん
Watson
アメリカのIBM社が開発した人工知能(AI)を活用したコンピュータ。さまざまな人のことばの意味・文脈を理解し、問題を解決する能力をもつ。名前はIBMの事実上の創立者トーマス・ジョン・ワトソン・シニアThomas John Watson,Sr.(1874―1956)にちなむ。2007年からアメリカの人気クイズ番組向けに開発され、2011年に人間のクイズ王を破って注目を集めた。2800個の中央演算処理装置(CPU)で毎秒80兆回の計算処理機能をもち、書籍100万冊分の知識を蓄積し、文字入力された質問からキーワードを拾い出して瞬時に回答を出す。データの関連性や規則性をみつけて分析する機械学習、無数のデータから特徴をみつけ出すディープラーニング(深層学習)などの能力をもつ。医療分野で膨大な論文、症例、病気画像などから適切な治療法の提案などに活用されているほか、コールセンターでの対応、自動運転車のハンドル操作、保険金の査定など幅広い分野への応用が検討されている。なおIBM社は、ワトソンは人間に脅威を及ぼす可能性のある人工知能ではなく、コグニティブ(認知型)コンピューティングシステムであるとの立場をとっている。
[矢野 武 2017年3月21日]