レッシュ‐ナイハン症候群(読み)れっしゅないはんしょうこうぐん

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

レッシュ‐ナイハン症候群
れっしゅないはんしょうこうぐん

先天性代謝疾患の一つで、男児の高尿酸血症のうち、もっとも重要な伴性潜性遺伝病である。1964年アメリカの医師レッシュMichael Lesch(1939―2008)によって発見され、その後ナイハンWilliam L. Nyhan(1926― )ら生化学者や遺伝学者の共同研究によってその全貌(ぜんぼう)が明らかにされた。この先天性代謝疾患と一般の代謝疾患である痛風との共通性について注目されている。

 レッシュ‐ナイハン症候群は、高尿酸血症のほか、筋緊張の異常と舞踏病様の不随意運動、および自分の唇や指をかむ自虐性の習癖がみられる男性の遺伝病であるが、生化学的にはヒポキサンチングアニンフォスフォリボシルトランスフェラーゼhypoxanthine guanine phosphoribosyltransferase (HG-PRTase)の先天的な欠損本態とされている。すなわち、核酸を構成するプリン塩基の成分(アデニンやグアニン)とイノシン酸の塩基成分であるヒポキサンチンは、体内でキサンチンを経て結局は尿酸となり尿中へ排出されるが、その一部はもう一度ヌクレオチドとなり核酸の生合成などに用いられている。この回収経路のうち、ヒポキサンチンとグアニンをそれぞれイノシン酸とグアニル酸として回収する酵素(HG-PRTase)が欠けていると、プリン体の生合成が著しく促進されて高尿酸血症をおこしてくる。これがレッシュ‐ナイハン症候群であり、プリン体が生合成される速度は痛風患者のそれよりも速やかである。

 症状としては、血中および尿中の尿酸値が上昇し、生後半年以内に運動発達の遅れや筋緊張の低下がみられ、その後に不随意運動が現れ、知能障害も進行性に悪化する。自虐的習癖は幼児期から学童期に多くみられる。また、おむつに尿酸が粉のように付着することがあり、成長とともに尿酸結石が高率にみられ、痛風様症状である関節炎や尿路結石なども現れる。予後は腎障害の程度に左右される。なお、尿酸結石の予防には、十分な水分摂取と尿酸阻害剤であるアロプリノール投与が行われる。

[山口規容子]

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