ホルモンの作用機序

内科学 第10版 「ホルモンの作用機序」の解説

ホルモンの作用機序(内分泌系の疾患の総論)

ホルモン受容体は,①ホルモンが結合できること,②ホルモン結合によるホルモン作用を発現できること,の2つの不可欠な機能がある.ホルモン受容体は細胞膜にある膜受容体と細胞質や核内にある核内受容体に大きく分類される.ホルモンのなかで,細胞内に入らずに作用するホルモンは,膜受容体に結合して,セカンドメッセンジャーを介して作用発現が起こる.一方,脂溶性の高いホルモンは細胞内に入り,細胞質または核内にある核内受容体に結合して標的遺伝子の発現を介して作用発現が起こる(図12-1-2).
(1)膜受容体
 ペプチドホルモンカテコールアミンなどの膜受容体は4つに分類される(図12-1-3).
a.G蛋白共役型受容体
 G蛋白共役型受容体(G protein-coupled receptors:GPCRs)は,細胞膜を7回貫通する構造を有し,GTP結合蛋白(G蛋白)を介して,エフェクターシグナルを伝達する.光刺激,アミンペプチド,糖蛋白ホルモン,神経伝達物質などの広範な細胞外刺激を感知する受容体がある.不活性型G蛋白はαβγが会合しており,αにはGDPが結合している.受容体にホルモンが結合するとGDPとGTPの置換が起こり,α-GTPがβγと解離してエフェクターに作用する.αはGTPase活性をもち,GTPをGDPにすると再びαβγ型となる.Gs,Giはそれぞれアデニル酸シクラーゼを活性化および抑制する.GqはホスホリパーゼC(PLC)を活性化し,イノシトールリン脂質を分解してイノシトール1,4,5-三リン酸とジアシルグリセロールを作り,細胞内Ca2濃度の上昇によるカルモジュリン依存性プロテインキナーゼの活性化,プロテインキナーゼCの活性化を起こす.
b.プロテインキナーゼ型受容体
 インスリンや成長因子(IGF-Ⅰ,EGF,PDGF,FGFなど)は受容体型チロシンキナーゼであり,細胞の増殖,分化,代謝に関与する.リガンド結合部位を含む細胞外ドメイン,1回膜貫通ドメイン,チロシンキナーゼの触媒部位を含む細胞内ドメインからなる.ホルモンが結合すると,細胞内ドメインのチロシンキナーゼにより,受容体自身を自己リン酸化して,細胞内アダプター蛋白(Shc,IRS1など)と相互作用していくつかのプロテインキナーゼを活性化する.
 GH,プロラクチン,レプチンなどのホルモンやインターロイキンインターフェロンなどのサイトカイン受容体は,受容体自身にチロシンキナーゼ活性を有さず,受容体近傍に存在するJAK(Janusキナーゼ)を活性化して細胞内転写因子であるSTAT(signal transducers and activators of transcription,シグナル伝達性転写因子)のチロシンリン酸化を起こしSTATの二量体化と核移行が起こり,転写因子としてはたらく.
 TGF(transforming growth factor,トランスフォーミング成長因子)-β,アクチビン,Müller管阻害因子(MIS),BMP(bone morphogenic proteins,骨形成蛋白質)などは受容体型セリン・スレオニンキナーゼであり,リガンド結合部位を含む細胞外ドメイン,1回膜貫通ドメイン,セリンキナーゼの触媒部位を含む細胞内ドメインからなり,1型受容体(R1)と2型受容体(R2)がある.ホルモンがR1に結合すると,R2と相互作用する結果,セリンキナーゼによりR2をリン酸化する.すると引き続き,受容体近傍に存在するSmadのセリンリン酸化を起こしSmadはさらにco-mediator(Co-Smad)とも相互作用して核移行が起こり,転写因子の機能を果たす.アクチビンやTGF-βファミリーのサイトカインではSmad2,Smad3がおもに用いられ,MIS,BMPファミリーではSmad1,Smad5,Smad8が用いられる.
c.グアニル酸シクラーゼ型受容体
 Na利尿ペプチドであるANP,BNP,CNPの受容体は細胞内ドメインにグアニル酸シクラーゼを有し,ホルモンの結合によりGTPからcGMPが産生されcGMP依存性プロテインキナーゼが活性化される.
d.イオンチャネル内蔵型受容体
 神経伝達物質であるアセチルコリン,GABA,グリシングルタミン酸などの受容体はイオンチャネル内蔵型である.このタイプの受容体はいくつかの膜貫通サブユニットが集まり中央部に親水性の穴(ポア,pore)がある.ここをイオンや水が選択的に通過して細胞機能を変化させる.これに対してトランスポーターとは,親水性の溶質がまず膜の外側に開口しているトランスポーターに結合した後,立体構造の変化によりトランスポーターが膜の内側に開口してここから溶質が細胞内へ輸送される.
(2)核内受容体
 膜受容体のポリペプチドなどのホルモンと異なり,核内受容体のリガンドは直接,遺伝子でコードされているものはなく,分子量1000 Daより小さい脂溶性リガンドで,消化管から容易に吸収される.
a.核内受容体のリガンド
 核内受容体のリガンドは4つに分類される.古典的ホルモンとしては,甲状腺ホルモンとステロイドホルモン(コルチゾール,アルドステロン,エストラジオール,プロゲステロン,テストステロン)がある.甲状腺ホルモン受容体(TR)にはTRα,TRβの2種類があり,エストロゲン受容体にもERα,ERβの2種類がある.また,ミネラルコルチコイド受容体(MR)は,アルドステロンとコルチゾールに対して同じ親和性を有し,組織によってはグルココルチコイド受容体として機能する(図12-1-4).また,アンドロゲン受容体(AR)はテストステロンとジヒドロテストステロンの両方に親和性を有する.
 ビタミンの中では,ビタミンAとビタミンDがリガンドとして知られている.ビタミンDの前駆体は皮膚で合成されて紫外線で活性化される.ビタミンDは肝臓で25-ヒドロキシビタミンDに変換され,腎臓で1,25-ジヒドロキシビタミンD3の活性体となり,ビタミンD受容体(VDR)の天然のリガンドとなる.ビタミンAは肝臓で貯蔵され,オールトランス型レチノイン酸に代謝されてレチノイン酸受容体(RARs)のリガンドとなる.レチノイン酸は9-cisレチノイン酸に代謝されるとレチノイドX受容体(RXRs)のリガンドとなる.
 中間代謝物もリガンドとなり,PPARs(peroxisome proliferator-activated receptors,ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体),LXR(liver X receptor,肝臓X受容体),BAR/FXR(bile acid receptor/farnesyl X receptor,胆汁酸受容体/ファルネソイドX受容体)などが受容体となる.PPARαはおもに肝臓に発現し,エイコサノイドの8(S)ヒドロキシエイコサテトラエン酸などがリガンドとして知られており脂肪酸の酸化,肝臓のペルオキシソーム増殖などに関与している.一方,PPAR δ(PPAR β)は全身臓器に発現し,脂肪や骨格筋における代謝の増加に関与している.PPAR γはおもに脂肪細胞に発現し,脂肪細胞の分化に重要である.天然のリガンドは不明であるがプロスタグランジンJ誘導体やインスリン抵抗性改善薬のチアゾリジン系経口糖尿病薬は,PPAR γに結合してインスリン感受性を亢進させる.コレステロール合成のオキシステロール中間代謝物はLXRを活性化する.また,胆汁酸はBAR/FXRのリガンドとなることが知られている.
 外因性の環境因子(xenobiotics,ゼノバイオティック)も核内受容体リガンドとなる.SXR/PXR(pregnane X receptor,プレグナンX受容体),CAR(constitutive androstane receptor,構成的アンドロスタン受容体)はこれらのxenobioticsをリガンドとしてチトクロームP-450酵素の発現を誘導して肝臓における毒性のある化合物の代謝を活性化する.
b.核内受容体によるホルモン作用発現
 核内受容体は前述の多様なリガンドが結合するが,その構造は相同性が高い.中央にDNA結合ドメイン(Cドメイン)があり,そのN末端には転写活性化ドメイン(AF-1)を含むA/Bドメインがあり,C末端側にはヒンジ領域(Dドメイン)とリガンド結合ドメイン(E/Fドメイン)がある.E/FドメインのC末端にホルモン依存性転写活性化ドメイン(AF-2)がある.Dドメインには核移行シグナルがある.受容体は,リガンド結合により核内のホルモン応答配列に(ホモまたはヘテロ)二量体を形成して結合する.ホルモンによる転写活性化の際には,多様なコアクチベーター(coactivator)蛋白群が動員されるが,ヒストンアセチル化(HAT)活性を有するもの(p160ファミリー,p300/CBP,pCAF(p300/CBP-associated factor)など),HAT活性がないメディエーター複合体(TRAP/DRIP:thyroid receptor associated proteins/D-receptor interacting proteins),ATP依存性クロマチンリモデリング複合体のSwi/Snf複合体などが知られている.一方,コリプレッサー(corepressor)には,N-CoR(nuclear receptor corepressor),SMRT(silencing mediator for retinoid and thyroid hormone receptors)などがある.コリプレッサーは酵素活性をもたないがヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を動員することにより転写抑制に働く.各組織におけるホルモン作用は,核内受容体に動員されるコアクチベーター,コリプレッサー蛋白の種類や量により制御されている.[柴田洋孝・伊藤 裕]
■文献
Melmed S, Polonsky KS, et al: Hormones and hormone action. In: Williams Textbook of Endocrinology, 12th ed, pp3-99, Elsevier Saunders, Philadelphia, 2011.
Jameson JL, DeGroot LJ: Principles of endocrinology and hormone signaling. In: Endocrinology, 6th ed, pp3-14, Elsevier, Amsterdam, 2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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