トーマスリン肥(読み)とーますりんぴ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トーマスリン肥」の意味・わかりやすい解説

トーマスリン肥
とーますりんぴ

19世紀末にイギリスで発明されたトーマス製鋼法により副生するリン酸含量の高いスラグ残滓(ざんし))で、塩基性リン肥として価値があり利用される。このスラグの組成酸化カルシウム40~55%、五酸化リン15~22%、ケイ酸5~10%、酸化鉄12~16%、酸化マンガン5~10%、酸化マグネシウム2~3%であり、鋼1トン当り200キログラム程度生成する。得られた暗褐色の塊を微粉砕して製品とする。水に不溶であるが、クエン酸アンモニウム溶液には可溶であり、この可溶性向上のためケイ酸分などを加え改質することもある。遅効性であるが、酸化カルシウムに富み、酸性土壌を中和する力があり、鉄、マンガンマグネシウムなどの有効成分をも含んでいる。リンを多く含む鉄鉱石を産するヨーロッパで多く生産されているが、製鋼法の変遷によるトーマス法の減少につれ、生産も急減している。なお、日本では製鋼法の改善で生産が停止された。

[井口泰孝]

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