テロとの戦い(読み)てろとのたたかい

知恵蔵 「テロとの戦い」の解説

テロとの戦い

テロリズムそのものは20世紀にイギリスの北アイルランドやスペインのバスク地方などにおける民族、宗教対立の中で頻発していた。絶望と憎悪が充満した少数者が、多数者に対する復讐の手段として、一般市民をも殺傷するテロを行ってきた。2001年9月11日、アメリカで起こった同時多発テロ以来、テロは世界政治の重大な問題として注目を集めるようになった。もはやテロは国内問題ではなく、西欧文明に対する憎悪の表現となった。アメリカのブッシュ大統領は9.11以降、テロとの戦いを唱えて、テロリズムの巣窟と見なすアフガニスタンイラクへの軍事侵攻を正当化した。また、イギリスや日本もこれに同調した。テロ対策といえば政府は、何をしても許されるという風潮が広がっており、その意味では為政者がテロを利用している側面もある。人を無差別に殺傷するテロは絶対に許されない。しかし、04年3月にマドリード、05年7月にはロンドンで、大規模なテロが起こったことに示されるように、力によってテロを完全に封じ込めることは不可能である。憎悪や怨念の原因に迫る息の長い取り組みこそが、有効なテロ対策である。

(山口二郎 北海道大学教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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