日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
コール(George Douglas Howard Cole)
こーる
George Douglas Howard Cole
(1889―1959)
イギリスの経済学者、社会主義理論家、労働運動研究家。オックスフォード大学在学中からW・モリスなどの影響を受けて労働運動や社会主義に関心をもち、1908年独立労働党とフェビアン協会に参加し、1914年にはフェビアン調査局の書記となって労働運動の調査研究に従事した。しかし当時のフェビアン協会の保守的傾向に不満をもち、ギルド社会主義にひかれてその運動に身を投じ、1915年にはナショナル・ギルド連盟の結成に参加し、指導的な役割を果たした。しかし第一次世界大戦後、ギルド社会主義運動の分裂を機に身を引いて、1925年にオックスフォード大学の経済学講師となった。1931年にはウェッブ夫妻らとともに新フェビアン調査局を設立して社会問題の調査活動を行い、またフェビアン協会の再建にあたってその議長(1939~1946、1948~1950)や会長(1952)にも就任した。この間、1944年から1957年までオックスフォード大学で社会政治理論の教授を務め、また進歩的雑誌『ニュー・ステーツマン・アンド・ネーション』の編集に携わったこともある。
彼の理論的立場は、当初からギルド社会主義や大陸のサンジカリズムに傾倒し、またマルクス主義を高く評価しながらも、それとは一線を画するものであった。彼の社会主義論は、労働者階級の階級的利益の立場にたちながらもヨーロッパの伝統的自由主義を堅持するものであって、労働運動における人民の自発的意志に基づく小自治組織を核とする社会改革を目ざすものであった。また、彼は第二次世界大戦後、朝鮮戦争に参加した国連軍やハンガリー事件におけるソ連の行動を批判し、半植民地・開発途上国の民衆の運動を支持するなど、自由な社会主義の立場を貫いた。著書は、イギリス労働運動の通史として著名な『イギリス労働運動小史』全3巻(1925~1927、改訂版1948)、フランス革命以降の社会主義の通史である『社会主義思想史』全5巻(1953~1960)などの歴史書のほか、『産業自治論』(1917)、『社会主義経済学』(1950)など多数に上り、また伝記や推理小説なども書いている。
[藤田勝次郎]