ケータイ小説(読み)けーたいしょうせつ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ケータイ小説」の意味・わかりやすい解説

ケータイ小説
けーたいしょうせつ

携帯電話を使って読まれることを前提に書かれた小説のこと。ケータイ小説専用の携帯サイトがあり、会員登録をすることで、だれもが自分で書いた小説を投稿し、会員はそれらの作品を読むことができる。書き手と読み手の距離が近いことから、10代から20代を中心とした若者、とくに女性たちから高い人気を集めている。

 そもそもは2000年ごろ、アマチュア作家Yoshiの『Deep Love』がブーム火付け役になったとされている。2006年ごろからは一段と人気が高まり、さまざまなケータイ小説作家が登場し、書籍化され数十万部のベストセラーになった作品もある。新垣結衣(あらがきゆい)主演映画化された美嘉(みか)の『恋空(こいぞら)』も、ケータイ小説から生まれた作品。

 ケータイ小説は、日ごろは本を読まない若者たちに読書のきっかけを与えたという点で評価されている。一方で、ストーリーが単純、文章が稚拙、性的描写が多いといった批判もある。現状は玉石混交だが、大手出版社がケータイ小説を作家の新たな登竜門として位置づけたり、作家の瀬戸内寂聴(せとうちじゃくちょう)が自らケータイ小説に挑むなど、ケータイ小説を新しいジャンルとして前向きにとらえる流れも生まれつつある。

 主要なケータイ小説の専門サイトとしては「魔法のiらんど」、「ケータイ livedoor」、「小説掲示板」、「Novel-Line」などがある。

[編集部]

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知恵蔵 「ケータイ小説」の解説

ケータイ小説

携帯電話サイトで閲覧できる小説、およびそれを書籍化したもの。NTTドコモiモードサービスを活用した音楽・映像の制作会社を2000年に起業したYoshiが自社携帯サイトの利用者を増やそうと自らが初めての小説『Deep Love』を執筆し無料配信、それを単行本にしたのがケータイ小説の始まり。読者対象を口コミ効果の高い女子高校生に置き、iモードの特性を活かしたメール会話調で軽薄短小表現の『Deep Love』は、アクセス数が1000万件を超えた2002年に自費出版し、通販で10万部を販売。これを02年末に引き継いだスターツ出版がわずか半年間で4部作で累計100万部を売った。この大ヒットを機に中学生から20代の女性向けに同世代の書き手が発表するケータイ小説分野が活況を呈する。「魔法のiらんど」「Goccoブックス」「おりおん☆」などの専用サイトが開設され、それぞれがケータイ小説大賞を設けて広く投稿を募り、出版社を通して書籍化し大ヒットを作り出している。最大手「魔法のiらんど」の投稿・閲覧サイトに掲載された作品数は100万タイトル以上。トーハンの07年単行本文芸部門ベスト10の半数がケータイ小説。1位は映画化された美嘉『恋空』上下巻(スターツ出版)累計200万部、2位はメイ『赤い糸』上下巻(ゴマブックス)累計100万部、以下3位が美嘉『君空』(スターツ出版)、5位が凛『もしも君が』(ゴマブックス)、7位が稲森遙香『純愛』(スターツ出版)。これら非文学と酷評される作品は初刷り5万〜10万部でプロ作家のおよそ10倍。

(村上信明 出版流通ライター / 2008年)

ケータイ小説

2007年の出版取り次ぎ大手トーハンと日販の文芸書売り上げのベスト3は、『赤い糸』『恋空』など単行本化されたケータイ小説が独占した。そもそもケータイ小説とは、「魔法のiらんど」などの投稿サイトに携帯を通して送られてくる小説のことで、文字数の制約から、情景描写が少なく会話が多いのが特徴で、「病気で死ぬ」などの定型的展開が多いのだが、等身大のストレートな心情が込められており、同世代の若者たちに人気である。自らの体験をつづったケースが多く、売れてもプロになる気はないという素人感覚ながら、例えば「魔法のiランド」には100万を超える小説が掲載されており、その中から、ヒット作が生まれてくるのである。その意味で、今までの出版社主導の作家育成システムとは違うビジネスモデルであり、メディアミックスの展開も含め出版界の新しい波である。

(稲増龍夫 法政大学教授 / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報