膜翅目(ハチ類)アリ科Formicidaeに属する昆虫の総称。女王(雌)アリを中心に家族的な集団(コロニー)で生活する。働きアリという無翅の階級が存在すること,胸部と腹部の間に1節,または2節の腹柄節という小型の独立した体節があること,雌アリと働きアリの触角は第1節(柄節)が長くのびて第2節以下とはひじ状に接続するなどの特徴をもつ。
原則的に雄アリ,雌アリおよび働きアリの3階級(カースト)がある。雄アリは無精卵から発生し,体細胞の染色体は雌性の半数。働きアリは性的には雌性で,発育不全のまま成虫になるため雌アリより小型で翅を欠き,生殖器官も退化している。オオズアカアリのように働きアリに大小2型がある場合は,大型のものを兵アリと呼ぶ。アミメアリでは雌アリの階級を欠き,働きアリの産卵でのみ繁殖する。一般に雌アリの寿命は長く,10年以上生存するものもあるが,働きアリでは1~2年である。
ふつう雌アリがもっとも大型で,雄アリ,働きアリの順に小型になる。働きアリの体長が2~10mmくらいの種類が多いが,コツノアリでは1mm,クロオオアリの大型の個体で14mm,東南アジア産のギガスオオアリや南アメリカ産のコワハリアリには30mmに達するものがある。成虫の体は頭,胸,腹の3部に分かれている。頭部は種類によってさまざまな形をしているが,雄アリでは小さい。大あご(大腮(だいさい))は物をくわえたり,かんだりするのに適しているが,食性や習性によって形状が著しく異なる。複眼と3個の単眼は雄アリがもっとも発達し,働きアリでは退化した単眼の残っている種類もあるが多くは消失し,複眼も雌アリより小型で,なかにはまったく消失して盲目となっている種類もある。触角は基本的に雄アリが13節,雌アリと働きアリでは12節となっているが,多少これより少なくなっているものも多い。胸部は前胸,中胸および腹部第1節が融合した後胸とからなり,雄アリと雌アリではよく発達し,ハチに似た2対の膜質の翅がある。働きアリでは幅と厚みが少なく細長で,構造も単純化して無翅。雌アリの翅には離脱性があり,交尾後に自分で落とす。前肢の脛節(けいせつ)先端に,はけ毛状のとげがあり,触角などの清浄に使われる。腹柄節は棒状,鱗片状,球状などで,腹部第2節,または第2,3節に相当し,ふつう腹部と呼ぶ部分はこれらを除いた残りのものである。雌アリや働きアリの腹部末端には毒針を備えるものや,尾端が円錐状でギ(蟻)酸を放出するものがあり,攻撃や防御のために使われる。
アリは完全変態を行い,卵→幼虫→さなぎ→成虫の順に発育する。卵は球状か細長で表面には光沢があり,互いに緩く粘着する。幼虫は白色,または乳白色で肢を欠き,うじむし状。若齢のものは互いに付着する性質があり,卵塊と同じように働きアリが運びやすい。種類によっては終齢幼虫が絹糸を吐いて繭をつくる。
アリは巣を本拠にして生活するが,巣は地中につくられるものと,地上部につくられるものに大別される。アミメアリは石や倒木,落葉の下の隙間などを巣として利用し,ときどき巣を移転する。クロヤマアリの巣は日当りのよい土地の地中につくられ,深さ2~3mの垂直な通路と多数の小部屋からなり,幼虫の成育する季節には地表に近い部分を横に広げ,巣口の数も増える。ミツバアリはタケなどの根に沿って巣をつくり,固有のアリノタカラカイガラムシを飼養して平常は地上に出てこない。雌アリは結婚飛行の際,必ずその1匹をくわえて飛び立つ。トビイロケアリは腐朽した材に巣をつくるが,巣の近くの通路を細かい木くずでトンネル状に覆うことがある。シベリアカタアリは樹木の枯枝の芯にすむが,コロニーが大きくなると一部が近くの枯枝に分かれて生活している。アフリカやアジアの熱帯に分布するツムギアリは,樹木の枝に幼虫の吐く絹糸で葉をつづり合わせて巣をつくる。マレー半島のミツデオオバギ(トウダイグサ科)は幹や枝の芯に空洞があり,その中にマカランガシリアゲアリがすんでいて,托葉にできる微小な食体や空洞内にすむカイガラムシの排出物を食料として生活している。アリが植物体をすみかとし,両者の間に特別な関係を生じたものをアリ植物といい,熱帯地方に見られる。
一つのコロニーに含まれている働きアリの数は日本産のクビレハリアリで約20匹,クロヤマアリでは数千匹,エゾアカヤマアリで数万匹程度であるが,アフリカ産のサスライアリや中南米産のグンタイアリには数百万匹に及ぶものがある。繁栄しているコロニーからは毎年羽アリ(有翅の雄アリや雌アリ)が生まれ,種類によってほぼ定まった時期に結婚飛行を行い交尾する。地上に戻った雌アリは翅を落とし,小さな隙間を見つけて隠れ新しいコロニーの創設が始まる。初め少数の卵が産卵され,女王アリは幼虫がかえると唾液を与えて育てるが,何匹かの働きアリが生まれて働くようになると巣内労働をやめ,産卵に専念するようになる。働きアリは巣外での食物集め,巣の防衛,巣づくり,卵や幼虫,女王アリの世話などの労働を行うが,これらには多少の分業が見られる。多くの種類では働きアリが食物を嗉囊(そのう)に蓄え,少量ずつ吐き戻して口移しに仲間に分け与えることが行われている。巣のにおいによって仲間を識別し,体の各部に開口する分泌腺から放出されるフェロモン(におい物質)や身ぶりなどで必要な情報が伝達され,アリのコロニーは整然と活動できる。
全世界から記録されたアリは約1万種類に達し,日本からは約200種が発見されている。アリ類は13亜科に分類されるが,日本産のものはそのうちの7亜科に含まれる。(1)ハリアリ亜科 腹柄は1筋で毒針があり,幼虫は繭をつくる。日本産はワタセハリアリ,オオハリアリ,アギトアリなど約30種。南アメリカ産のコワハリアリはこの亜科で最大。(2)クビレハリアリ亜科 他のアリの巣を襲う習性があり,日本産は2種。(3)サスライアリ亜科 雌アリは働きアリよりはるかに大型で無翅。無数の働きアリが行進して獲物を狩る西アフリカ産のサスライアリは有名。日本産は西表島から発見されたヒメサスライアリの1種のみ。(4)ムカシアリ亜科 土壌中にすむ微小なアリで,日本産はヤスマツムカシアリなど5種。(5)フタフシアリ亜科 腹柄は2節で毒針がある。繭をつくらない。日本産はクシケアリ,地下4m以上の深い巣をつくり,雑草の種を貯蔵するクロナガアリ,オオズアカアリ,トビイロシワアリ,ヒメアリ,コツノアリ,アミメアリ,キイロシリアゲアリなど約100種。熱帯原産のイエヒメアリは,国内のデパート,マンション,病院など冬季に暖房のある大型建物内にのみ繁殖。南北アメリカに分布し,菌類を栽培することで知られるハキリアリもこの亜科に属する。(6)ルリアリ亜科 腹柄は1節で繭をつくらない。日本産はシベリアカタアリ,ルリアリなど6種。農作物の大害虫で屋内害虫としても知られる南アメリカ原産のアルゼンチンアリは要注意。(7)ヤマアリ亜科 腹柄は1節で幼虫は繭をつくる。多くは尾端から蟻酸を放出する。日本産はトビイロケアリ,クロヤマアリ,枯れた植物体の小片で塚をつくるエゾアカヤマアリ,奴隷狩りを行うサムライアリ,クロオオアリ,ミツバアリ,トゲアリなど約60種。ツムギアリや北アメリカ産のミツツボアリもこの亜科に含まれる。
執筆者:久保田 政雄
アリは小さいもののたとえにひかれる。〈蟻の穴から堤が崩れる〉とはきわめて小さいすきによって大失敗の起こること。また一列縦隊で行進するため〈蟻の熊野詣〉といい,ごく狭い通過点を〈蟻の戸渡り〉と呼ぶ。次の話はもとインド伝来の説話であるが民間でもよく知られている。昔,唐土から日本に内部で幾重にも屈曲した細い穴の通っている宝玉を送ってきた。これに糸を通してみよ,できねば軍勢を送って日本を滅ぼすというのである。某の中将は時の帝の70歳以上の老人はすべて生かしておくべからずという命令に背いて,ひそかに老いた親をかくまっていたが,その親から玉の穴の一方の口にみつを塗り他の口から糸を結んだアリを入れてみよと教えられ,この難題を解いたので,唐の日本征討は中止され帝も棄老令を改めた。これは和泉国蟻通し明神の縁起となり,各地の民話にもあるが,アリのような小虫にも価値ありという説話である。
執筆者:千葉 徳爾
アリは勤勉さを象徴する昆虫であり,大プリニウスの《博物誌》には,〈月の見えない夜を除いて昼夜を分かたず餌運びにはげみ,人間以外で唯一仲間の死骸を土に埋める生物〉と説明されている。イソップ寓話の〈アリとキリギリス〉の話もよく知られている。ヨーロッパの伝承によれば,アリは妖精が姿を変えたものとされ,その巣を壊すと不吉だが,スズをそこに差し込んでおくと銀に変わるともいわれる。ギリシア神話には,アイギナ島の住民が疫病で全滅したとき,ゼウスは王の敬虔さを償う意味で,アリをその住民に変えたという。一方,アフリカには大群をなして人畜を襲う種類が生息し,これを刑罰に利用した〈アリ責め〉が,近年まで一部の部族で行われていた。また6000年前のインドでは縫合手術の代用として,傷口の両縁をアリにかませておく方法が使われていたという。また地方によっては食用とし,インドではアリ飯,メキシコではミツツボアリの腹中のみつから酒をつくる。
執筆者:荒俣 宏
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「モハメド・アリ」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…植物体の一部をアリの生活場所として提供し,アリと共生関係にあるといわれる植物で,熱帯地方に多い。アリに住居を提供する代償として植物体が外敵から保護されているといわれるが,具体的に共生関係が確かめられた例はない。…
…語感から一般に〈集団生活をしている昆虫〉ととられがちだが,実際はおもにアリ,シロアリおよび一部の集団性ハチ類(カリバチ類waspsのアシナガバチ,スズメバチやハナバチ類beesのミツバチ,ハリナシバチ,マルハナバチ,一部のコハナバチなど)に対して用いられるもので,以下この意味で解説する。これらの昆虫の特性は,集団(コロニー)がカースト制によって維持されている点にある(ヒトにおけるカースト制とは,表面的類似はあっても無関係)。…
…原始有蹄類の生きのこりと思われ,他に近縁種はなく,この1種だけで管歯目Tubulidentataをつくる。円盤状の鼻をもち,体型も全体にブタに似るが,アリとシロアリを主食とする特殊化した動物。胴が太く首は短い。…
※「アリ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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