アフロディテ(英語表記)Aphroditē

デジタル大辞泉 「アフロディテ」の意味・読み・例文・類語

アフロディテ(Aphrodītē)

ギリシャ神話で、美と愛の女神。ゼウスディオネの子とも、また、泡から生まれたともいう。愛神エロスは軍神アレスとの子。ローマ神話ビーナスにあたる。

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精選版 日本国語大辞典 「アフロディテ」の意味・読み・例文・類語

アフロディテ

(Aphroditē) ギリシア神話で、美と愛の女神。海の泡から立ち上がったので、アフロディテ(「泡から生まれた者」の意)と名づけられたとも、ゼウスとディオネとの子ともいわれる。ローマ神話のビーナス。

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改訂新版 世界大百科事典 「アフロディテ」の意味・わかりやすい解説

アフロディテ
Aphroditē

ギリシア神話の恋愛と美の女神。ローマ神話のウェヌスVenus英語読みでビーナス)にあたる。ホメロスによれば,ゼウスとディオネDiōnēの娘。しかしヘシオドスの《神統記》によれば,ゼウスの父神クロノスがその父ウラノス(天)の陽物を切断して海に投じたとき,まわりにわいた泡(アフロス)から生まれたのがこの女神であるという。オリュンポス神の列に加えられてから,彼女は鍛冶の神ヘファイストスの妻となったが,軍神アレスと情を通じて愛神エロス,テーバイの建設者カドモスの妻となったハルモニア等を生んだ。ヘラ,アテナ両女神と最も美しい女神の誉れを争ったときには,審判に選ばれたトロイアの王子パリスに美女ヘレネとの結婚を約束して勝利をおさめ,トロイア戦争遠因をつくった。彼女はまたトロイア王家の一員アンキセスを見初め,ローマ建国の祖アエネアスの母となったほか,美青年アドニスを寵愛した話でもよく知られる。もともと彼女はセム系の豊穣(ほうじよう)多産の女神アスタルテ起源が求められる神格で,ギリシアへはミュケナイ時代にキプロス島を経由して入ったと考えられる。海に生まれてから,まずキプロス島またはキュテラ島(ペロポネソス半島南端に近い小島)に上陸したという伝承は,彼女の東方からの伝来の記憶をとどめるものであり,豊穣神としての性格はアドニスとの関係に認められる。またアレスとの結びつきは,アスタルテがあわせもつ戦闘神の性格のなごりであろう。崇拝の中心地はキプロス島,キュテラ島,および彼女が売淫の女神としてまつられていたコリントスが名高い。美術では,プラクシテレス作の《クニドスのアフロディテ》(前350ころ)が古代に最も高い評価を得た彫刻であったが,ローマ時代の模刻しか伝わらない。1820年にメロス島で発見されたアフロディテ像《ミロのビーナス》は,ヘレニズム期の傑作としてあまりにも有名。
ビーナス
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百科事典マイペディア 「アフロディテ」の意味・わかりやすい解説

アフロディテ

ギリシア神話の女神。ローマ神話のウェヌス(ビーナス)にあたる。起源はセム系の女神アスタルテにさかのぼるとされ,元来は豊穣をつかさどったが,のち愛と美の女神となる。ヘシオドスによれば,クロノスが父神ウラノスの陽物を切って投じた海の泡から生まれ,オリンポス十二神にはいる。美しい帯飾に惑わされて鍛冶神ヘファイストスと結婚するが,軍神アレスの姿にひかれ愛人とする。デモドコスやアドニスら人間の美男子をも愛し,アンキセスとの間にアエネアスを産んだ。ヘラ,アテナ両女神と美を競ってトロイア王子パリスの審判を仰ぎ,トロイア戦争の遠因となった。《ミロのビーナス》,ボッティチェリ《ビーナスの誕生》など,古来おびただしい美術作品が残る。
→関連項目エロス(神話)オリンポス十二神トロイア戦争ハトホルパフォスヘルマフロディトス

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アフロディテ」の意味・わかりやすい解説

アフロディテ
あふろでぃて
Aphrodītē

ギリシア神話の愛と美と豊穣(ほうじょう)の女神。後のローマ神ビーナス(ウェヌス)と同一視されている。ホメロスによれば、ゼウスとディオネの娘であり、愛神エロスの母とされているが、ヘシオドスによれば、クロノスによって切断されたウラノスの男根の周りに集まった海の泡(アフロス)から誕生したとされている。

 アフロディテは水泡から生まれると、西風に運ばれてキテラからキプロスに行き、そこで季節の女神たちに衣を着せられて神々のところへ導かれた。アフロディテは火と鍛冶(かじ)の神ヘファイストスを夫とし、軍神アレスとひそかに愛しあった。ホメロスの『イリアス』では、彼女はトロヤ方を援助し、『オデュッセイア』では、アレスとの密会をヘファイストスに見破られ、夫の網にかかって神々の前で醜態を演ずる。アレスとの間には、エロス、アンテロスなどの子が生まれた。またアフロディテは、ディオニソス、ヘルメス、ポセイドンなどの神々とも交わったが、アンキセス、アドニスら人間との恋愛話もあり、トロヤ人アンキセスとの間には英雄アイネイアスが誕生している。トロヤ陥落後この息子がローマを建設すると、女神はローマ人の母なる神として崇(あが)められた。生物誕生の源である愛欲がこのアフロディテの象徴であり、そのため女性の美と魅力のすべてが女神の姿に具現されている。

[小川正広]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アフロディテ」の意味・わかりやすい解説

アフロディテ
Aphroditē

ギリシア神話の美と愛と豊穣の女神。ローマのウェヌスと同一視された。ヘシオドスではクロノスがウラノスを去勢したとき,海に投捨てられたウラノスの性器よりあふれ出た泡から生れ,キプロス島に上陸して神々の仲間に迎え入れられたとされ,またホメロスではゼウスとディオネの娘といわれる。ヘファイストスと結婚したが,足が不自由で醜男のこの夫を嫌い,軍神アレスと通じたとされ,愛神エロスは彼女がアレスの種により生んだ子ともいわれる。このほかにも,アドニスを熱愛したり,人間の英雄アンキセスを愛してアイネイアスを生んだりした。彼女を最も美しい女神と判定したトロイ王子パリスのために,スパルタ王メネラオスの妃であった美女ヘレネを手に入れるのを助けてやり,トロイ戦争の原因をつくった。キプロス島のパフォスに祭祀の中心を有したこの女神は,オリエントの大女神イシュタルの系統をひくと思われる。

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旺文社世界史事典 三訂版 「アフロディテ」の解説

アフロディテ
Aphrodite

ギリシア神話のオリンポス12神のひとり
ラテン名はヴェヌス(Venus)で,ヴィーナスはその英語読み。愛・美・豊穣の女神。本来はキプロス島で祭られていたオリエントの豊穣の神であった。海の泡から生まれ出たという。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「アフロディテ」の解説

アフロディテ
Aphrodite

古代ギリシアの美と愛の女神。火神ヘファイストスの妻。ほとんどギリシア全土で崇拝され,女性美の極致として彫刻に表現された。ローマではウェヌス(Venus)となり,ヴィナスとして有名。

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世界大百科事典(旧版)内のアフロディテの言及

【アドニス】より

…キプロスの王女ミュラが父親と交わり,没薬(ミュラ)の木と化して生んだ子。その美しさにうたれた女神アフロディテとペルセフォネが彼の争奪戦を演じたため,ゼウスの裁量で,彼は1年の4ヵ月をアフロディテと地上で,4ヵ月をペルセフォネと冥界で,残りは自分の好きなところで過ごすよう定められた。のち狩りの最中に猪に突き殺されたとき,その血潮からアネモネが,彼を悼むアフロディテの涙からバラが生じたという。…

【アレス】より

…また女武者から成るアマゾン族の祖とされる。ホメロスの《オデュッセイア》には,女神アフロディテとの密通の現場を捕らえられる有名な神話があるが,一説では彼はアフロディテの夫で,彼女とのあいだにテーバイの建設者カドモスの妻となったハルモニアHarmoniaをもうけた。アテナイの最高法廷アレオパゴス(アレイオス・パゴス,〈アレスの丘〉の意)の名は,かつて彼がここで裁きを受けたことに由来するという。…

【ギリシア神話】より

…苦悶したガイアは末子クロノスに勧め,鎌で天父の男根を切断せしめた。肉片は海に落ち,まわりに泡(アフロス)が生じ,そのただなかから愛の女神アフロディテが生まれた。これは神話にしばしば見られる語源俗解だが,海からのこの女神の誕生はその本性にもふさわしい。…

【ギリシア美術】より

…しかし男性立像にはアクロポリスの《クリティオスの少年》に見られるように,直立像にわずかながら立脚と遊脚の区別が現れ,そのため像の中央軸はこれまでの垂直線から少しずつ湾曲し始めるのである。この時代の代表作には,2個の青銅像《デルフォイの御者》と《アルテミシオンのゼウス(ポセイドン?)》があり,浮彫には有名なルドビシ玉座の《アフロディテの誕生》がある。前460年ころ完成したオリュンピアのゼウス神殿の破風群像と12枚のメトープ浮彫とは,厳格様式の最後を飾る傑作である。…

【ギンバイカ】より

…寒冷地では霜除けが必要である。【古里 和夫】
[伝説]
 ギンバイカは美神アフロディテ(ウェヌス)の神木とされ,常緑樹であるところから〈不死〉や〈復活〉のシンボルともなり,外地に移民する際の護符として尊ばれた。その葉や実が芳香を発するため,ローマ時代には湯に浸けて入浴する習慣も生まれ,女神の美しさにあやかろうとする女性たちの間で流行した。…

【グラウコス】より

…彼はボイオティアのポトニアイに住み,数頭の牝馬を人肉で飼育していたが,イオルコス王ペリアスの葬礼競技で戦車競走に出場して敗れたあと,自分の馬に食われて死んだ。その理由は,彼がイオルコスに逗留(とうりゆう)中,人肉を与えなかったためとも,牝馬をつがわせなかったので,女神アフロディテの怒りを買ったためともいう。アイスキュロスは彼を主人公にした悲劇《ポトニアイのグラウコス》を書いたが,断片しか現存しない。…

【しり(尻∥臀)】より

…女性の尻は豊かに盛り上がり生殖と豊穣を象徴する。フランスのローセル出土のグレート・マザー(大地母神)のレリーフ,シルイユ出土の女体像,オーストリアのウィレンドルフ出土の女身像など,いずれもまるまると隆起した尻をもつものをビーナス像ともいうのは,ビーナス(ウェヌス)に相当するギリシアの美神アフロディテを別名カリピュゴスKallipygos(〈美しい尻をもった〉の意)と称したからである。アフロディテ像はみな,大きく美しい尻をもっている。…

【スズメ(雀)】より

…雛は孵化したときにはまだ眼が開いておらず,巣にはある期間いて両親か一方の親の保育を受ける。【中村 登流】
【象徴,民俗】
 スズメはアフロディテの聖鳥で,愛,とくに夫婦仲のむつまじさを象徴し,ときには好色の代名詞にもされる。そのために卵は媚薬(びやく)に使用された。…

【聖婚】より

…宗教学的には,大地の豊穣を確実にするための象徴儀礼であり,その背後には,地母神に対する崇拝が存在していた。聖婚儀礼は,小アジアから東部地中海沿岸一帯に広く分布していたが,その中心地はキプロス島の南西端のパフォスPaphosにあるアスタルテ(ギリシアのアフロディテと同一視された)の神殿であった。この地域に住む未婚女性は,結婚前に神殿に詣で,一夜パフォスの王の前に聖なる花嫁として処女を捧げる習俗に従っていた。…

【バラ(薔薇)】より

…例えばそれは美の化身であるから,そこから正・負の意味合いが,こもごも生じてくる。赤いバラは勝ち誇る美と愛欲の女神ビーナス(ギリシア神話のアフロディテ,ローマ神話のウェヌス)と容易に結びつくし,白いバラは聖母マリアの純潔と霊的な愛を表しえた。しかし,美しい花はうつろいやすく,人の世の愛もまたうつろいやすい。…

【ビーナス】より

…ローマの女神ウェヌスVenusの英語名。ウェヌスはもとはローマの菜園を守る小女神であったが,のちにギリシアの女神アフロディテと同一視され,愛と美をつかさどる女神の総称となった。
[旧石器時代の地母神崇拝]
 ビーナスの原型およびビーナスにまつわる神話は,太古の地母神崇拝に起源をもっている。…

【媚薬】より

…長大な陰茎をよしとしてこれを求める願望と関連した男性性器を大きくする薬や,女性性器を小さくする薬といわれるものも媚薬の中に数えられるのは,それによって性感がいっそう高まると信じられているからである。そのラテン語アフロディシアクムaphrodisiacum(複数形aphrodisiaca)は,ギリシア神話の美と官能の女神アフロディテに由来する近代の学術的造語である。 惚薬(ほれぐすり)も媚薬の一つであるが,これを用いれば相手が特定の人物に恋慕の情をつのらせると信じられた。…

【ヘファイストス】より

…オリュンポスに戻ってからは,彼は鍛冶の神として神々のために青銅の宮殿を建造し,また専用の仕事場で英雄アキレウスの武具,アガメムノンの王笏(しやく),テーバイ王カドモスの后ハルモニアの首飾などの驚嘆すべき品々や,人類最初の女性パンドラをつくった。このほか,彼はゼウスから美と愛の女神アフロディテを妻に与えられていたが,彼女と軍神アレスの不義を知ったとき,目に見えない網をつくって密会中の両神をとりおさえたという話も伝わっている。 彼はもともと小アジアの火山地帯の火の神で,それがエーゲ海上のレムノス島を経由してギリシア本土に入り,火を使うすべての職人の守護神となったものと考えられる。…

【星】より

… またギリシア神話の星座の起源譚の中には,しばしばオリエントの神話がとり入れられている。たとえばうお座の起源は,怪物の王テュフォンを恐れ,神々がそれぞれ動物に姿を変えて姿を隠したときに,美の女神アフロディテは,息子の愛の神エロスとともにユーフラテス川に飛びこみ,魚たちにかくまってもらった。そこでその魚たちが,その功績によって星にされたと物語られている。…

【女神】より

…古代オリエント,ならびに地中海世界の人々の心を魅了した〈聖なる花嫁〉,豊饒の女神とは,どのような神々であったのか。これについては,北シリアのラス・シャムラ(ウガリト)で発掘された粘土板に刻まれたバアル神話の女神アナトAnatをはじめ,エジプトのオシリス崇拝における女神イシス,ギリシアやフェニキアのビュブロスのアドニス信仰にみられる女神アフロディテなど,いずれも男神=花婿の死を嘆き悲しみ,死者の国から花婿を連れ戻すために闘う戦勝の女神として知られている。 M.エリアーデの《大地・農耕・女性》によると,古代地中海世界に広くみられるこうした女神崇拝は,古代社会における農耕儀礼に,その起源をさかのぼることができるという。…

※「アフロディテ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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