お歯黒
おはぐろ
歯を黒く染めること。日本では鉄漿 (かね) ともいい,古く中世の頃には男子も歯を黒く染めていたといわれるが,一般には女子の間で盛んであり,16~17歳頃になると鉄漿親を頼んで歯を黒く染めた。これは成年としての一つの印であり,お歯黒をしたのちは,可婚の娘として男子との交際が許された。日本では古い鉄屑を焼いて濃い茶の中に投じ,酒,飴などを加えてつくるが,ボルネオのドゥスン族の間では,かばの木の葉を粉にし,ある種の木の灰を混ぜ,これを歯に塗って,塗った個所をバナナの葉で押しておき,そこにさらにつる草の皮の粉と石灰を混ぜたものを塗って乾かして歯を黒くする。また東南アジアの諸民族の一部でも,女性が成年になった印としてお歯黒をするが,彼らはびんろう樹の果実の小片と石灰とをつる草の葉とともに噛むことによって歯を黒く染めるという。お歯黒はこのように,身体装飾の一つであるとともに,成年になった印として存在しているとみられる。一方お歯黒とは逆に,歯を白くするように努める習俗のある民族もいる。アフリカのヌエル族は,灰や牛糞を用いて歯を白くし,パングウェ族は真鍮で飾られた杖形の歯ブラシを用いて歯の白さを保持しようと努めている。
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