TSH産生下垂体腺腫・ゴナドトロピン産生下垂体腺腫

内科学 第10版 の解説

TSH産生下垂体腺腫・ゴナドトロピン産生下垂体腺腫(視床下部・下垂体)

(1)TSH産生下垂体腺腫(TSH producing pituitary adenoma)
定義・概念
 TSH(thyroid stimulating hormone,甲状腺刺激ホルモン)を産生する腫瘍であり,下垂体腺腫の0.5〜2%を占めるまれな疾患である.侵襲性が強く,比較的大きな腺腫(マクロアデノーマ)として発見されることが多い.ほかの下垂体前葉ホルモンを同時に発現している頻度も高く,特にGHまたはプロラクチンの産生が約80%の例で認められている(Teramotoら,2004).
臨床症状
 動悸,手指振戦,発汗過多,体重減少などの甲状腺機能亢進症を呈する.またTSHによる慢性的な甲状腺刺激により,びまん性の甲状腺肥大が高頻度に認められる(Beck-Peccozら, 1996).このためBasedow病と誤診されて長く治療されている場合がある.また,腫瘍が大きく視野障害,頭痛や性腺機能低下を合併する例も少なくない.
検査成績・診断
 TSHやゴナドトロピンLHFSH)はいずれもα,βサブユニットの二量体からなる糖蛋白ホルモンの構造を有し,共通のαサブユニットと個々のホルモンに特異的なβサブユニットが非共有結合したものである.本疾患では血清中のFT3,FT4,αサブユニットが高値を示す.TSHは60%程度で高値を示すものの,正常範囲にとどまる場合もある(不適合TSH分泌症候群:SITSH).αサブユニットの産生が多いため,αサブユニット/TSHのモル比が1.0をこえる.GH,プロラクチンを同時に産生する例でも,血中のGHやプロラクチンは上昇を示さないことが多い.
 甲状腺ホルモンが高値であるにもかかわらず,THSが正常〜高値である病態(SITSH)は甲状腺ホルモン不応症でも認められる.しかし,甲状腺ホルモン不応症ではTRH刺激に対しTSHが良好に反応するのに対し,TSH産生腫瘍ではTSHの反応性低下が認められる.またT3抑制試験では,TSH産生腫瘍の8割以上の患者でTSHや131I甲状腺摂取率の抑制が認められないが,甲状腺ホルモン不応症では抑制が認められる.画像診断では,発見時に大部分症例が直径1 cm以上のマクロアデノーマであり,また60%以上の例で海綿線静脈洞や蝶形骨洞への浸潤がみられる.
治療
 第一選択は経蝶形骨洞腺腫摘出術(Hardy法)であるが,腫瘍が硬く浸潤性のことが多いので手術単独での寛解率は低い.薬物療法ではソマトスタチンアナログ(オクトレオチド)の徐放性製剤やドパミンアゴニスト(カベルゴリン)が甲状腺ホルモン分泌抑制に有効な例もあるが,腫瘤の縮小をきたす例は45%程度である.オクトレオチドを用いても甲状腺機能亢進が持続する場合は抗甲状腺剤を用いる.また,手術後の残存腫瘍や手術が不可能な場合はガンマナイフ治療も行われる.
(2)ゴナドトロピン産生下垂体腺腫(gonadotropin producing pituitary adenoma)
定義・概念
 ゴナドトロピンを産生する腫瘍であり,下垂体から発生しFSHやLHを産生する腺腫である.下垂体性ゴナドトロピン産生腺腫は,①ほかの下垂体腺腫に比較して,マクロアデノーマの頻度が高い,②LHやFSHの遺伝子ないし蛋白を発現しているが分泌されないことが多い,③必ずしも機能亢進症状を呈さないことなどの特異な性格を有している.むしろゴナドトロピンの分泌不全を示す場合もあり,ゴナドトロピン過剰症状を呈する例はごく一部の例にとどまる.したがって臨床的には非機能性下垂体腺腫として扱われている例が多い.病理学的検討により,通常FSHβ,LHβならびにαサブユニットの発現を認める.
病態・臨床症状
 本腺腫は特異的な症状を示すことが少ないが,頭痛や鞍上進展した腫瘍による視交叉圧迫症状としての視野障害(両耳側半盲)や視力障害が,発見の契機となる場合が多い.本腺腫から産生・分泌されるゴナドトロピンは,多くの場合FSHやFSHβであり,このため性ステロイドの分泌過剰を伴わないことが多い.血中FSH高値の例では,LHはむしろ抑制され,性腺機能低下症状を示す.しかしFSHやLHが同時に分泌されている例では性腺が刺激され,女性では卵巣過剰刺激症候群(多囊胞性卵巣),男性では精巣腫大や,尋常性痤瘡,皮膚の脂漏性を示すことがある.また高エストロゲン血症や高テストステロン血症を呈する.しかし,閉経後の女性ではホルモン過剰症状は発現しない.またマクロアデノーマにより正常下垂体が圧迫され,下垂体ホルモン産生障害を生じることも多い.
検査成績・鑑別診断
 視野障害や頭痛,ほかの下垂体ホルモン欠乏症状があり,下垂体の画像検査でマクロアデノーマを認める場合,LH,FSH,αサブユニットや,ほかの下垂体ホルモン,コルチゾール,甲状腺ホルモン,IGF-1などを測定する.血中LH,FSHは基準値内のことも多いが,男性や閉経前の女性でLH,FSH,αサブユニットが高い場合には本疾患の疑いが強い.原発性の卵巣不全では,LH,FSHが上昇するが,αサブユニットの上昇は認められない.
 LH-RH試験では,約半数の例でFSH,LH,αサブユニットが種々の程度に反応を示す.TRH試験では,TSH,PRLのみならず,FSH,LHまたはαサブユニットの反応が認められることが多い(40%).閉経前の女性において卵巣過剰刺激症候群や過少月経を呈する例,男性で精巣腫大や女性化乳房を呈する疾患を示す例では,それらを生じる基礎疾患のすべてが鑑別の対象となる.
治療
 マクロアデノーマの場合,第一選択は経蝶形骨洞腺腫摘出術である.腺腫が大きく全摘不能な例も多いが,頭痛や視力の改善には効果が認められる.残存腫瘤や腫瘍の再増大の場合は,ガンマナイフなどの放射線療法が行われる.非機能性のミクロアデノーマの場合は,ホルモン測定や画像検査を行いながら経過観察する.妊娠の可能性のある女性では腺腫の摘出が望ましい.薬物療法は無効な場合が多いが,一部の例でオクトレオチドやブロモクリプチンの有効性が報告されている.[橋本浩三]
■文献
Beck-Peccoz P, Brucker-Davis F, et al: Thyrotropin-secreting pituitary tumors. Endocr Rev, 17: 610-638,1996.
Teramoto A, Sanno N, et al: Pathological study of thyrotropin-secreting pituitary adenoma: plurihormonality and medical treatment. Acta Neuropath, 108: 147-153, 2004.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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