RNAによる遺伝子の調節

六訂版 家庭医学大全科 の解説

RNAによる遺伝子の調節
(遺伝的要因による疾患)

 近年20~30塩基程度の低分子RNAや、蛋白(たんぱく)をコードしないmRNA型のRNAの存在が明らかにされ、それらが遺伝子機能の多様性や複雑性に関与しているのでは、と考えられ始めています。

 きっかけになったのはFireとMello博士によって発見されたRNA干渉(かんしょう)RNAi)という現象でした(両博士はこの発見により2006年ノーベル賞を受賞)。

 これは特定のmRNAと相同な2本鎖RNAを導入すると、そのmRNAが分解されるという現象です。最初に線虫で見つかった現象ですが、今では多くの動植物で確認されています。

 2本鎖RNAが導入されると、Dicerと呼ばれるRNA分解酵素が結合して、21~23塩基対のsmall interfering RNA (siRNA)に切断されます。このsiRNAはいくつかの蛋白質RISC(RNA induced silencing complex:RNA誘導型サイレンシング複合体)と呼ばれる複合体を形成し、mRNAの相同塩基配列と結合してmRNAの切断を行います。このことによりmRNAは蛋白質の合成ができなくなります。

 この発見を機に、ゲノム中から産生される21~23塩基のRNAの検索が行われ、今日microRNA (miRNA)と呼ばれるRNA群が多数同定されました。miRNAはmRNAの主に3’非翻訳領域に結合し、翻訳の制御やmRNAの安定性の制御を行っていることが明らかになってきました。

 また、ひとつのmiRNAが多くの遺伝子を制御していること、さらに遺伝子のなかには複数のmiRNAによって制御されているものもあることがわかってきました。

 RNAiを用いた遺伝子抑制法は、比較的手軽に応用できる画期的な遺伝子抑制法として、あっという間にさまざまな分野で使われるようになりました。

 今後は遺伝子機能の解析はもとより、がん感染症などの遺伝子治療にも、貢献することが期待されています。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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