Lambert-Eaton筋無力症候群

内科学 第10版 の解説

Lambert-Eaton筋無力症候群(神経筋接合部疾患:重症筋無力症とLambert-Eaton筋無力症候群)

概念
 運動神経終末のP/Q型膜電位依存性カルシウムチャネル(P/Q-type voltage-gated calcium channel:P/Q型VGCC)に対する自己抗体により,神経筋接合部の刺激伝達が障害されて筋力低下を生ずる疾患であり,四肢近位筋の筋力低下と口渇などの自律神経症状を主症状とする.また,その10%弱では小脳失調症を引き起こす一方,傍腫瘍性神経症候群の代表で,約60%に肺小細胞癌(small cell lung cancerSCLC)が合併する.
病因・病態
 SCLCがP/Q型VGCCを発現していて,免疫学的交差反応によりP/Q型VGCC抗体が産生されると考えられている.そのP/Q型VGCC抗体により神経終末のP/Q型VGCCが減少し,カルシウムイオンの流入が阻害され,アセチルコリン遊離が減少して筋力が低下する.神経筋接合部の神経終末では,AChR抗体陽性MGでみられるような補体介在性膜破壊は認められない.
疫学
 その希少性より正確な頻度は不詳であるが,一般的にMGの1/100の頻度であるといわれている.これまでのLEMS患者50例以上の3つの臨床研究(O’Neilら, 1988; Nakaoら, 2002; Titulaerら, 2008)で共通しているのは,男性優位で平均発症年齢は50~60歳代にピークを認め,SCLCを42~61%と高頻度に合併していることである.わが国のLEMS110例では,男女比は3:1,発症年齢は17から80歳で平均62歳である.SCLCの合併率は61%,その他の癌が8%,そして,残りの31%が癌非合併例であった.わが国の疫学の特徴は,ほかの報告と比べて自律神経症状の頻度が低く,SCLCの合併率が高いことである.
臨床症状
 初発神経症状の90%以上が下肢近位筋の筋力低下に起因する歩行障害であり,易疲労感,上肢筋力低下がこれに続く.症状のピーク時には球症状,眼瞼下垂を含む全身の筋力低下が現れ,人工呼吸を要する呼吸不全に至る例が約5%ある.その他,約30%に口渇や散瞳,霧視,膀胱直腸障害などの自律神経障害を合併する.神経学的所見としてはpost-tetanic potentiation,深部腱反射消失が特徴的である.また,10%弱に小脳失調を合併することがある.MGのように,眼筋のみに症状が限局することはほとんどない.
検査成績
1)反復刺激検査:
LEMSでは複合筋活動電位(compound muscle action potential:CMAP)の振幅著明に低下する.これはMGにはみられない変化である.反復刺激の刺激頻度は2~50 Hzで行う.2~5 Hzの低頻度刺激ではMGと同様に振幅の漸減がみられる.50 Hz高頻度刺激でLEMSに特異的な反応,waxing現象がみられる.
2)P/Q型 VGCC抗体測定:
SCLC合併LEMSのほぼ全例,non-SCLC LEMSの90%近くでP/Q型VGCC抗体が陽性となる.
3)Saxon試験:
LEMSの自律神経系の評価としてもっとも有用である.滅菌ガーゼを2分間咀嚼させ,その後ガーゼの重さを測定する.通常は,4 g/2分間の唾液が分泌されるが,LEMS患者では有意に低下する.後述する3,4-ジアミノピリジンを内服投与すると,低下していた唾液量が増加する.
診断
 臨床症状と電気生理検査で診断する.P/Q型 VGCC抗体陰性のLEMSが約10~15%存在する.
鑑別診断
 四肢近位筋優位の筋力低下をきたす疾患,重症筋無力症,多発筋炎,末梢神経障害などが鑑別の対象となる.
合併症
 わが国では,その60%以上にSCLCを合併する.また,10%弱であるが,小脳失調を合併する.
治療
 LEMS治療の基本原則は,SCLCの発見とその根治的治療である.なぜなら,LEMS患者のSCLCを化学療法,放射線治療,外科手術などで治療し根治させると,LEMS症状も著明に改善するからである.この原則に従って,Oxford大学のNewsom-DavisがLEMSの治療方針を提唱した.その後,彼らは,「LEMSを合併するSCLCは,LEMSを合併しないSCLCより予後が良い」と報告した.この観察的事実は,LEMSの自己免疫機序がSCLCの進行を遅らせていることを示す.わが国のLEMSでは約60%に悪性腫瘍の合併(そのほとんどはSCLC)が認められ,その80%以上が悪性腫瘍発見前にLEMSを発症している.したがって,LEMSと診断した後は,SCLCを主体とした悪性腫瘍の検索を積極的に行うべきである.癌合併例に強力に副腎皮質ホルモン薬や免疫抑制薬による治療を行うと,癌の進行を促進させる可能性が高くなる.したがって,癌合併LEMS患者には,3,4-ジアミノピリジンとコリンエステラーゼ阻害薬による対症療法でLEMS症状を薬理学的に改善させる程度にとどめ,免疫抑制療法は行わずに,SCLCの治療に専念すべきである.原則,LEMS発症後2年間は,LEMS自体の治療より悪性疾患検索を積極的に行うことが望ましい.
 癌を合併していないLEMSとは,その診断後少なくとも2年間,SCLCの検索をしても見つからない症例が対象となる.わが国のLEMSでは,約30%が癌非合併例である.このような症例では,すでに3,4-ジアミノピリジンとコリンエステラーゼ阻害薬などで治療されている.その効果が不十分であれば,副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬で治療することになる.これらの治療法でも,筋無力症状が改善せず高度な運動機能障害や呼吸不全がある場合,あるいは,これらの治療が副作用や合併症のために十分に使用できない場合は,血漿交換や大量免疫グロブリン静注療法を行う.その治療は,同じ神経筋接合部疾患であるMGに準じて行われているのが現状である.残念ながらわが国では,LEMS治療で保険適応のものは1つもない.
予後
 LEMSの予後は,SCLCをはじめとする悪性腫瘍を合併するか否かで大きく異なる.LEMS発症早期にSCLCが発見されSCLCに対する治療が奏効した場合には,生命予後だけでなくLEMS症状自体も著明に改善する.一方,SCLCの治療がうまくいかなかった場合には,生命予後が数年間と限られる.[本村政勝]
■文献
Farrugia ME, Vincent A : Autoimmune mediated neuromuscular junction defects. Curr Opin Neurol, 23: 489-495, 2010.
本村政勝,白石裕一:抗MuSK抗体陽性重症筋無力症.In Annual Review 神経(鈴木則宏,祖父江 元,他編)pp328-336,中外医学社,東京,2011.
本村政勝,福田 卓:【神経筋接合部 基礎から臨床まで】 Lambert-Eaton筋無力症候群.Brain Nerve, 63: 745-754, 2011.
Shiraishi H, Motomura M, et al: Acetylcholine receptors loss and postsynaptic damage in MuSK antibody-positive myasthenia gravis. Ann Neurol, 57: 289–293, 2005.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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