高電子移動度トランジスタHigh Electron Mobility Transistorの略。ガリウム・ヒ素(GaAs)半導体とアルミ・ガリウム・ヒ素(AlGaAs)半導体をヘテロ接合(異種の原子の接合)させ、電子を供給する領域と電子が走行する領域を分離して、電子のドナー不純物による散乱を避けて、高速を得るとともに雑音を低減したトランジスタで、1980年(昭和55)に富士通(株)で開発された。構造は半絶縁性のGaAs基板の上にバッファ層、ついで厚さ0.3マイクロメートルの不純物濃度がきわめて薄いアンドープGaAs層、さらにその上にAlGaAs層を成長させる。後二者はヘテロ接合構造で接しており、この部分に原子の20層程度ときわめて薄い二次元電流チャネルを接合面に沿って形成する。このため、普通のバルクを用いた三次元チャネルのトランジスタに比べると、電子の移動度は10K(Kは絶対温度ケルビン)で100倍、100Kで10倍、常温でも2倍と大きくなり、高速のトランジスタ動作が得られる。スイッチング素子では伝達遅延時間がピコ秒(10-12秒)のもの、マイクロ波素子としては十数ギガヘルツで雑音指数は1デシベル程度のものが得られ、衛星通信に利用されている。
[岩田倫典]
(荒川泰彦 東京大学教授 / 桜井貴康 東京大学教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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