Eisenmenger症候群

内科学 第10版 の解説

Eisenmenger症候群(先天性心疾患)

定義
 本症の定義は,先天性心疾患に伴って,高度肺高血圧があり,肺血管閉塞性病変が存在して,両方向性短絡または右-左短絡が優位となった状態である.
血行動態
 肺動脈収縮期圧は大動脈圧に近い.通常,肺血管抵抗は15単位・m2以上である.原疾患は,心室中隔欠損症,心房中隔欠損症,動脈管開存症,房室中隔欠損症,総動脈幹症,単心室,完全大血管転位症などである.
病理
 肺血管の組織像では,内膜肥厚,中膜肥厚,肺小動脈の閉塞を認める(図5-8-18).Heath-Edwards分類でⅣ度以上は不可逆性とされる(表5-8-3).
臨床症状
 初期には無症状のことが多い.次第に,労作時呼吸困難息切れ,運動時チアノーゼが出現し,20~30歳代には安静時にもチアノーゼが認められるようになる.平均の酸素飽和度は85%程度である.
 多血症となり,過粘稠症候群に伴う神経症状(頭痛,めまい,目がチカチカするなど)があることがある.入浴時などに体血管抵抗が急激に下がると,失神することがある.
 血痰喀血を約20%に認め,肺内出血による死亡もある.肺塞栓をきたすこともある(約10%).胸痛は肺塞栓のサインであることがある.胸痛や喀血がある患者では突然死の可能性があるので要注意である.まれに,拡張した肺動脈が破裂し死亡することがある.
 心室頻拍を認め,失神することもある.失神は約10%に認める.細菌性心内膜炎(約10%),脳膿瘍を合併することもある.
身体所見
 Ⅱ音肺動脈成分の亢進,収縮期クリックを聴取する.短い収縮期雑音が聞かれることもあり,収縮期雑音を聴取しないこともある.肺動脈閉鎖不全による拡張器雑音(Graham Steell雑音)を聴取することがある.ばち状指を認める【⇨図2-25-1】.
検査成績
1)胸部X線:
左第2弓,肺動脈の拡張を認める.肺野はやや明るくなる(図5-8-19).
2)心電図・Holter心電図:
右房負荷,右室肥大,右軸偏位の所見である.心房細動,粗動が35%に発生し,心室頻拍を10%に認めることがある.
心エコー検査
 右室圧が左室圧と等圧で,右-左短絡を認める.
血液・尿検査
 赤血球増加,血小板減少,低コレステロール血症,高尿酸血症,高ビリルビン血症,腎不全所見,蛋白尿などを認めることがある.
カテーテル検査
 検査のリスクは高い.特に,造影検査は体血管抵抗を変えるのでリスクは高い.カテーテル中や,検査後に突然死することがあるので,適応を十分検討してから行うべきである.手術適応の有無の確認や,薬物効果をみる必要がある場合には適応となる.造影剤の使用後に体血管抵抗が下がり急死することがある.肺血管床をみる目的で造影する場合には,肺動脈末梢にバルーンカテーテルを楔入し,少量の造影剤を充填した後,バルーンを解除することで,肺の一部区域の血管床を観察する.
患者の管理
1)妊娠,出産:
妊娠,出産は禁忌である.避妊の教育が必要である.妊娠した場合には,自然流産の率は高いが,早期に人工妊娠中絶を勧めるべきである.妊娠,出産による死亡率は30~70%で,出産後数日~1カ月以内の死亡が多い.
2)外科手術:
非心臓手術で,本来なら比較的低リスクの手術でもリスクは高いので,必要でなければ行わない.小外科手術でもリスクがあるので必要性を十分考慮する必要がある.
治療・予後
インフルエンザワクチンなど各種ワクチンの接種を行う.鉄欠乏性貧血があれば鉄剤を内服,右心不全に対しては利尿薬を内服させる.
 プロスタグランジンI2(エポプロステノール)の持続点滴静注,エンドセリン受容体拮抗薬(ボセンタン),ホスホジエステラーゼ阻害薬(シルデナフィル)などを用いて運動機能などが改善したという報告がある.肺血管拡張薬で生命予後が改善したという報告もあるが,長期成績はいまだ不明である.
 在宅酸素療法により長期の酸素投与で予後が改善されたという報告もあるが,否定的な報告もあり,いまだ長期成績は不明である.
 喀血に対してはよい治療法がない.安静にして,止血薬を投与し,咳に対して対症療法を行う.一般的に,原発性肺高血圧症に対しては抗凝固療法が勧められるが,Eisenmenger症候群に対しては抗凝固は勧められない.しかし,高頻度に肺血栓を認めるという報告もある.肺塞栓と肺出血という血栓と出血傾向を両方あわせもつ病態で管理が難しい.心房細動の患者では抗凝固が必要である.
 瀉血は一般的にはすすめられない.しかし,過粘稠症候群で症状が強い場合には瀉血が行われることがある.頻回の瀉血は貧血をきたし,出血傾向をもたらすので施行すべきでない.
 突然死(おそらく不整脈死)(約30%),心不全(約25%),肺塞栓(約15%),などによる死亡があり得る.妊娠,非心臓外科手術,脳膿瘍や心内膜炎による死亡もあり得る.近年,内科管理の改善により50~60歳までの生存も可能となっている.30歳,40歳,50歳まで生存する確率はそれぞれ,75%,70%,55%で,平均寿命は40~60歳である(図5-8-20).
 また,心肺移植の5年生存率は約50%であるので,自然歴と勘案して移植の適応を決定する必要がある.[中西敏雄]
■文献
Diller GP, Dimopoulos K, et al: Presentation, survival prospects, and predictors of death in Eisenmenger syndrome: a combined retrospective and case–control study. Eur Heart J, 27: 1737-1742, 2006.
Harris P, Heath D eds: The Human Pulmonary Circulation, pp 247-261, Churchill Livingstone, New York, 1986.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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