Ebstein奇形

内科学 第10版 「Ebstein奇形」の解説

Ebstein奇形(その他の先天性心疾患)

(2)Ebstein奇形(Ebstein anomaly)
定義・頻度
 三尖弁の異形成と付着偏位のために,さまざまな程度の三尖弁逆流/狭窄をきたす疾患群であるが(図5-8-22),右室の異常を高頻度に伴う.代表的にみられるのが右房化右室である.
徴候・管理・治療
 Ebstein奇形は発症時期,重症度,血行動態に関してきわめて多様な疾患群である.最重症な病型では胎児期から著明な心拡大,胎児水腫を呈し胎内死亡に至る.一方三尖弁の形態的機能的な異常が軽微であり,心機能循環動態に問題とならないものも存在する.これらを一括して記述することは不可能なのでそれぞれの病型ごとに以下に述べる.
1)新生児発症型:
重症型のうち胎内死亡を免れて出生したものでも,心拡大が著しく胎内での心臓圧迫による肺低形成を随伴している(図5-8-23).これは肺血管抵抗の上昇をきたし,右室の前方拍出能力低下を伴って肺循環の維持を困難とする.重症低酸素血症と心不全を生直後から呈し新生児期早期の介入が必要となる.肺動脈閉鎖を伴わない場合にも,肺血管抵抗上昇から有効な肺血流は動脈管依存性となる.
 内科的治療としては動脈管の開存と肺血管抵抗の低下を目指すことになる.前者にはPGE1製剤,後者に対しては機械換気,酸素,NOの吸入,肺血管拡張薬が使用される.肺血管抵抗の低下,肺動脈圧の低下が得られず,また体血流が確保されないときには早期の手術介入が必要となる.
2)乳児期型:
新生児期に手術介入を必要とする最重症型とは別に,新生児期にチアノーゼと右心不全で発症するが内科的治療に反応するのもある.このタイプでは出生直後には動脈管によって肺循環が維持されあたかも肺動脈閉鎖のような血行動態となるが,肺血管抵抗の低下によって右室からの前方拍出による肺循環が得られる.新生児期の強い症状にもかかわらず,それ以降の手術介入がまったく不要の場合もあり得る.また右室流出路閉塞を伴うものでは新生児期の動脈管依存の代替として乳児期早期の体肺シャントが必要となる.
3)小児期型:
三尖弁逆流がある程度強く,心拡大が明らかであっても,心房間短絡がないものでは,心不全徴候は目立たないことがある.心房間短絡がある場合には,運動時の酸素飽和度低下が生じ運動能低下が明らかとなる.外科的介入の適応は運動能低下のほか奇異性塞栓,内科的治療が奏効しない不整脈である.心房間交通により奇異性塞栓や右左短絡による低酸素血症(労作時に著明となる)が生じる.心房間短絡がないと低酸素にはならないが,肺血管抵抗の急激な上昇が起こった場合にはafterload mismatchが生じて肺循環を保てなくなり,心房間右左短絡がある場合に比較して心拍出(体血流)が極端に低下し,体循環の維持も困難となることがある.
4)成人型:
成人での徴候症状は右心不全による浮腫や肝機能障害,運動時の息切れやチアノーゼのほかに心奇異性塞栓および房性不整脈である.有症状で進行性の患者に対しては形成が可能であれば早期の手術適応がある.成人での術式では三尖弁形成または弁置換(および追加される心房間短絡の閉鎖,不整脈に対する副伝導路の切離,Maze手術,冷凍凝固)となる.[山田 修]
■文献
Knott-Craig C, Goldberg S: Management of neonatal Ebstein’s anomaly. Semin Thorac Cardiovasc Surg Pediatr Card Surg Annu, 112-116,
2007.

Ebstein奇形(非チアノーゼ性心疾患)

(4)Ebstein奇形(Ebstein anomaly)
疫学
 全CHDの0.3~0.6%と比較的まれな疾患で性差はない.合併奇形がなく,三尖弁2閉鎖不全が軽症の場合には成人に達する.新生児期に高度チアノーゼと心不全を呈するものから成人期まで無症状のものまできわめて多様である.重症例では高度の三尖弁閉鎖不全を示し右心不全となり,右房圧上昇からASD合併例では右左短絡からチアノーゼを生じる.
臨床症状・検査成績
 一般のEbstein奇形と同様である【⇨5-8-10)-(2)】.
 
経過・予後
 未手術で30歳以降の生存も多く70~80歳の報告がある.死亡原因は心不全(50%),不整脈関連の突然死(20%)とされる.WPW症候群に加え,加齢に伴い右房負荷は心房粗動や細動の原因となり,心不全増悪や突然死をきたすことがある.術後20年の生存率は約80%である.[大内秀雄]
■文献
Nakazawa M, Shinohara T, et al: Study Group for Arrhythmias Long-Term After Surgery for Congenital Heart Disease: ALTAS-CHD study. Arrhythmias late after repair of tetralogy of fallot: a Japanese Multicenter Study. Circ J, 68: 126-130, 2004.
Ohuchi H, Kagisaki K, et al: Impact of the evolution of the Fontan operation on early and late mortality: a single-center experience of 405 patients over 3 decades. Ann Thorac Surg, 92: 1457-1466, 2011.
Shiina Y, Toyoda T, et al: Prevalence of adult patients with congenital heart disease in Japan. Int J Cardiol, 146: 13-16, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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