EU法(読み)いーゆーほう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「EU法」の意味・わかりやすい解説

EU法
いーゆーほう

EU(ヨーロッパ連合)をつくる法、およびEUがつくりだす法。EUは加盟国から独立した立法権をもち、加盟国の法とは別個のEU法を独自に制定できる(その点で国連など一般の国際機関と異なる)。

 EU域内の経済活動の自由化と円滑化のために域内市場での商品、サービス、資本、人の自由移動を保障する法や競争法、規格基準の調和立法などを中心に立法がなされてきた。このほか共通農漁業政策、環境政策、通貨(ユーロ)政策の実施法、域外からの移民規制法などにも及ぶ。1990年代以降は、国際テロや国際組織犯罪に対抗するための法など、外交・安全保障や警察・刑事司法協力の実施法、EU法が適用される範囲での基本的自由・人権を保護する法にも立法が及ぶようになった。

 EU法は、EUを設立する法(基本法規)とEU機関がつくる法(派生法規)に大別できる。基本法規は、EU条約、EU運営条約(旧EC条約)、EU基本権憲章、EU法の一般原則(EU裁判所判例で認めた不文の法原則)である。これらはEUの創設、運営の原則を定め、EU機関を統制する法であり、一国の憲法に相当する最高法規の地位効力をもつ。基本法規どうしには優劣がなく、調和的に解釈適用されるべきものとされる。

 派生法規は、EUの機関が制定する規則Regulation、指令Directive、決定DecisionやEUが域外国等と締結する国際条約international agreementである(EUは、基本法規が許す範囲では、EU独自に国際条約を締結する権能をもつ)。なお、勧告Recommendationと意見Opinionには法的拘束力がなく、ここにいう派生法規に入らない。

 派生法規は基本法規に基づき制定される下位法規で、基本法規に適合的に解釈適用され、基本法規に矛盾抵触するときは無効とされる。規則は、EU全域で一般的に適用されるルールを定め、加盟各国の法整備を要せず各国内に直接適用される。指令は、EU加盟諸国への法整備命令であり、指令の内容を各国が法を整備して実施するように命ずる(ただし実施の方式は各国にゆだねられる)。決定は、特定の個人や加盟国に対して発せられ、名宛人を直接に拘束する。

 以上の形式の違いはあるものの、EU裁判所は判例において、あらゆるEU法について、規定の文言と内容が明確で無条件であれば、EU内の人々や企業に直接に権利を発生させる効果(直接効果)があり、人々は加盟国内の裁判所でEU法上の権利を直接に行使できると判断してきた(直接効果の法理)。直接効果は、基本法規と派生法規のいずれにも、文言と内容が明確かつ無条件であれば、発生しうる(ただし、指令の直接効果は、指令の国内実施を怠る加盟国に対して私人が権利を主張する場合にのみ発生する)。

 直接効果のあるEU法と加盟国の法とが矛盾抵触する場合は、EU法がつねに優先的に適用される(EU法の優位性の原則)。優位性原則もEU裁判所の判例法で確立された。直接効果と優位性は、EU法の統一的な適用をEU全域で確保するために必要な原理であり、EU法の特徴をなす。

 このようなEU法の性質の結果、EUと加盟国の関係は連邦と州の関係に類似している(ただしEU自体は連邦国家ではない)。EUも加盟国も独自の立法権をもつが、EU法は加盟国法に優先し、加盟国の人民は加盟国(州政府)とEU(連邦政府)の二つに直接に統治される。このような連邦的手法の統治は、リスボン条約でさらに明瞭になった。そこでは立法事項に応じてEUと加盟国の間で立法権が配分されている。EUが排他的に立法できる事項(ユーロなど)、EUと加盟国のいずれも立法できるがEUが立法すればそれが優先する事項(域内市場の法など)、加盟国が主体的に立法しEUは支援しかできない事項(文化政策の法など)といった区分が明文化された。

[中村民雄 2018年6月19日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android