EPA(経済連携協定)(読み)いーぴーえー

日本大百科全書(ニッポニカ) 「EPA(経済連携協定)」の意味・わかりやすい解説

EPA(経済連携協定)
いーぴーえー

複数の国や地域の間で、貿易・投資自由化、人的交流拡大、環境保護、テロ防止ルールづくりなどの経済関係の緊密化・円滑化を目的に結ぶ国際協定。Economic Partnership Agreementの略。FTA(Free Trade Agreement)と概念は同じであり、EPA日本外務省がつくった和製英語である。なおEPAは「経済連携協定」、FTAは「自由貿易協定」と訳される。

 1990年代以降、ウルグアイ・ラウンドドーハ・ラウンドのように、世界貿易機関(WTO)が進める100か国超の自由貿易協定の合意には膨大な時間がかかるため、二国間や特定地域内でFTAを結ぶ流れが世界的に加速した。アメリカ、カナダ、メキシコが1992年に結んだ北米自由貿易協定NAFTA(ナフタ))や1993年に発足したEU(ヨーロッパ連合)などが代表例であり、主要国は2000年代初頭にかけてFTAを結ぶ動きを強めた。日本もシンガポールやメキシコなどとのFTA締結を急いだが、貿易全体に占めるFTA相手国との比率はアメリカ、EU、韓国、中国などを下回っていた。とくに米、麦などの農産物関税引下げに農業団体が強く反発し、これが日本の協定締結を遅らせた。このため日本では「わが国のFTA締結テンポは世界の主要国より遅れている」との批判報道が目だつようになった。こうした批判を受け、外務省は2000年代初頭にEPAという新たな用語をつくり、「FTAが関税撤廃・削減やサービス貿易の障壁撤廃を目的とする協定であるのに対し、日本のEPAは投資、人の移動、知的財産保護などを含むより幅広い協定である」と説明するようになった。日本国内ではこうした外務省の説明に準じ、同様な用語説明をするケースが多い。ただ多くの国・地域が結んでいるFTAには、投資・知的財産保護ルールなども盛り込まれており、EPAとFTAに概念上の違いはない。国際交渉の場や外国報道機関はFTAという用語を使うのが常で、日本開催の国際会議などでEPAという用語を使う際にはほとんどFTAと併記される。

 日本は2021年(令和3)1月時点で、シンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、東南アジア諸国連合(ASEAN(アセアン))全体、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルー、オーストラリア、モンゴル、TPP(環太平洋経済連携協定)11(イレブン)、EU、アメリカ、イギリス、RCEP(アールセップ)(東アジア地域包括的経済連携)と、EPA・FTAを結んだ(署名済みを含む)。このなかにはシンガポールのように、日本との二国間協定に加え、日本・ASEAN、TPPと三つの協定を結んでいる国もある。こうした複数協定締結国の場合、いちばん低い関税率などもっとも有利な貿易協定が適用される。日本はトルコ、コロンビア、日中韓、湾岸協力会議(GCC:Gulf Cooperation Council。アラブ首長国連邦、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビアの6か国)、韓国、カナダとの間でも締結に向けた協議や検討に入っている(中断しているものも含む)。WTOの多国間協定を重視した日本は当初EPA・FTA締結で出遅れたものの、最近はTPP、RCEPなどのメガFTAを締結し、貿易全体に占める締結国との貿易比率は2020年10月時点で約79%と、アメリカ(48.0%)、EU(29.5%)など主要国より高い水準にある。

[矢野 武 2021年4月16日]

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