CI(corporate identity)(読み)しーあい

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

CI(corporate identity)
しーあい

コーポレート・アイデンティティcorporate identityの略。企業の理念から営業など日常の諸活動までをコミュニケーションの視点から統合し、どの活動も自社を体現する同一性あるものとして表現することを意味する概念。その表現は、社名シンボルマーク、ブランド、製品デザイン、包装、マスコミ広告、PR誌、PR映画、VTR、看板、ネオンサインポスターから社用箋(せん)、社員のユニフォーム、社屋、自社製品を積んで走るトラックなどを通して行われる。それらの媒体に、文字、絵、写真、色、レイアウトなどの諸デザイン要素を基に構成するのがCIの具体的表現である。アメリカでは、企業の理念、目的を含むあらゆる企業活動を企業全体の立場から統合・システム化して社会に対応するコーポレート・コミュニケーションcorporate communicationsの重要性が1970年代以降とくに強調されてきた。これはPRやソーシャル・マーケティングと共通する経営課題としてCIの思想的基盤となっている。表現の送り手である企業の意図と、消費者など受け手に培われる企業イメージが一致するのがCIの理想型である。

[小倉重男]

歴史

国家や宗教についてみれば、その統合性表現は、民族や宗教の歴史を限りなくさかのぼることができるが、企業やその製品についてデザインの面でCIが意識的に取り上げられるようになった源は、1919年にドイツで設立された建築・工芸デザイン研究所、バウハウス、あるいはフランスからアメリカに渡ったR・ローイが1930年代に始めた工業デザインの思想に求めることもできる。1947年G・ピントリーがデザインしたイタリアの事務機器メーカー、オリベッティのロゴタイプ(商標などの字体)は、同社のCIを確立するとともに、今日の各国企業のCIに画期的な影響を与えたものとして評価される。CIということば自体は、1953年に開かれたスイスの化学・薬品メーカー、CIBA(チバ)の国際社員会議の際の、アメリカの子会社のデザイン・ディレクター、J・フォグルマンの発言のなかにみいだされる。

 1950年代から60年代のアメリカは高度産業社会を実現し、その繁栄のなかで企業活動も多様化した。国際企業も輩出、従来のトレードマークやシンボルマークを超えたビジュアル・アイデンティティ(視覚表現の統合性)から、さらにCIの発想が必要不可欠となった。初期のCIで成功を収めた企業には、コンピュータ産業のIBM、電機メーカーのウェスティングハウス(以上のデザイナーはP・ランド)、放送会社CBS(デザイナーはW・ゴールデン)などがある。アメリカのデザイン界は、プラグマティズムの伝統の下、1930年代、ナチズムの脅威を逃れてアメリカへ渡ったバウハウスのデザイナーたちの思想も吸収し、第二次世界大戦後、世界を主導する位置にたったが、CIはこれを象徴する。1950年代、ドイツでは電機メーカーのブラウンが製品思想から同デザイン、広告を統合する同一性表現に成功した。同社のデザイン計画は、バウハウスの復活を目ざしたウルム造型大学のデザイナーたちの協力によるところが大きい。CIは人種、民族、言語、風土により各国さまざまに表現されているが、共通点は、企業理念をデザイン表現に意識的に体現しようとしていることである。

 日本では、高度経済成長の頂点の1970年(昭和45)前後、多角化した自社製品イメージの統一の必要性、環境課題、消費者・市民関係の緊張、社会的価値観の多様化方向のなかでCIへの関心が高まった。第一勧業銀行(現みずほ銀行、みずほコーポレート銀行)、イトーヨーカ堂、東急グループなどがそのはしりであった。1960年代にアメリカのアルミメーカーのアルコアやユナイテッド航空などのCIを手がけたS・バスに委嘱し、73年に出現した「味の素」のCIは大きな成果をあげ、CIが広い注目を集めるようになった。

[小倉重男]

急展開するCI

CIの考え方や表現方式は、1980年代に入り急展開を示した。その要因は次の5点である。

(1)企業が理念にまでさかのぼって再検討を迫られていること。すなわち、管理社会化の進展、エレクトロニクスをはじめ科学・技術の大革新の趨勢(すうせい)のなかで、企業が内外から人間性の蘇生(そせい)を要請されていること、また日々進行している製品やサービス、業態の変化や国際化に対応する必要があること。

(2)印刷、映像をはじめ視聴覚手段がマクロ、ミクロにわたって変質し、コミュニケーションの手段・方法の全領域で大きな変容をきたしていること。音楽的な要素は、人間集団の同一化を高めるが、これが視覚的なCIとの一体化を強めていくであろうこと。

(3)CIでは、統合性、同一性が目的であるが、製品、サービス、販売、そのための表現では、各要素の独自性も求められ、CI自体の再考察も重要なこと。社会もまた、各地方・地域・諸団体の自律性や個性化が課題となり、多様な価値意識をもって生活している人々との相互理解では、単なる画一化や標準化CIでは適合しない面があること。

(4)企業のCIシステム化の動きが、日本でも行政機関はじめ非経済団体の統合性表現にも大きな影響を与えていること。

(5)国際社会においても、オリンピックなど国際的行事でもCIが課題となっているが、人類の普遍性とともに各国・各民族の個性や独自性の発揮のためにも、ドイツ国民を統合し全体主義へ駆り立てる役割を果たしたナチス・ドイツの国旗のシンボルマーク、ハーケンクロイツとは対極の「自由」な思想的基盤からのCIが求められていることである。

[小倉重男]

『日経広告研究所編・刊『CIの理論と実際』(1982)』『加藤邦宏著『コーポレート・アイデンティティ』(1981・日本能率協会)』『P. B. MeggsA History of Graphic Design (1983, Van Nostrand Reinhold Co., N. Y., U. S. A.)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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