BHC(読み)ビーエッチシー

精選版 日本国語大辞典 「BHC」の意味・読み・例文・類語

ビー‐エッチ‐シー【BHC】

〘名〙 (benzene hexachloride の略) ベンゼンに六原子の塩素が付加した化合物化学式は C6H6Cl6 白色粉末。殺虫剤として極めて強力で農薬として広く使われたが、残留性が高く、蓄積による慢性毒性問題化し、日本では昭和四六年(一九七一)使用、製造ともに禁止

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デジタル大辞泉 「BHC」の意味・読み・例文・類語

ビー‐エッチ‐シー【BHC】[benzene hexachloride]

benzene hexachloride》有機塩素系の殺虫剤。ベンゼン環に六つの塩素が付加した形の化合物。8種の異性体があり、そのうちγガンマ異性体が殺虫性を示す。発癌はつがん性があり、現在は使用禁止。

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改訂新版 世界大百科事典 「BHC」の意味・わかりやすい解説

BHC (ビーエッチシー)



有機塩素系殺虫剤の一つ。benzen hexachlorideの略だが,化学名は1,2,3,4,5,6-hexachlorocyclohexaneである。9種の立体異性体が存在し,そのうち8種(α~θまでのギリシア文字がつけられている)が合成されている。これらの中で,γ異性体の殺虫力が最も高いことが,イギリスのスレードR.E.Sladeらによって1942年に見いだされ,きわめて有効な殺虫剤として広く用いられるようになった。純粋なγ-BHCは融点112~113℃の結晶で,リンデンlindaneともよばれる。250~480nmの波長の光をあてながら,ベンゼン中に塩素ガスを通ずると,BHCの異性体の混合物を生ずる。この混合物をメチルアルコールから再結晶すると,γ体の多い混合物がえられ,これが殺虫剤として用いられる。γ-BHCはニカメイチュウツマグロヨコバイなどの稲作害虫をはじめ,カ,イエバエシラミナンキンムシなど衛生害虫に対してもきわめて有効で,その殺虫力はDDTのそれをはるかにしのぐものである。とくにニカメイチュウに対する殺虫力が強いことから,広く稲作に用いられた。しかし,BHCもDDTと同様に,作物や土壌などへの残留性が高く,とくに食物連鎖によりイネに散布されたBHCが,稲わらを飼料とした乳牛の牛乳中に濃縮され,またさらに人乳中にも検出されるなどの深刻な問題をひき起こし,DDTと同様1971年に使用禁止となった。γ-BHCは急性毒性で50%致死量LD50=125mg/kg(ラット,経口)である。昆虫の中枢神経に作用し,激しい神経興奮作用をひき起こす。

 γ-BHC以外の異性体,とくにα-,β-体の殺虫活性は弱く,しかも生体内できわめて安定で分解されにくいため,慢性毒性をひき起こす主要な原因物質と考えられている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「BHC」の意味・わかりやすい解説

BHC
びーえいちしー

ベンゼンヘキサクロリドbenzenhexachlorideの略称であるが、この化合物はベンゼンに塩素を付加したものであるから、正式化学名は1,2,3,4,5,6-hexachlorocyclohexaneである。日本で命名した誤名のBHCが国際的になった。1825年ファラデーが初めて合成し、1912年リンデンTeunis van der Linden(1884―1965)が4個の配座異性体を発見、1941年になって殺虫力のあることが発見された。1942年スレードRoland Edgar Slade(?―1968)が詳細な研究を行い、異性体中でγ(ガンマ)と命名するものが抜群に殺虫力をもつことを発表した。各種の害虫に対して接触毒、食毒、燻蒸(くんじょう)毒作用をもち、日本では1949年(昭和24)から水田や果樹や野菜の害虫防除とともに、ハエ、カ、ノミなど衛生害虫の防除にも広く大量の製剤が使用され、奏効を呈した。自然界で分解しにくいために食物連鎖で生物濃縮され、最終的に人体へ蓄積するおそれを考慮し、1971年より日本では使用が禁止された。

[村田道雄]

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百科事典マイペディア 「BHC」の意味・わかりやすい解説

BHC【ビーエッチシー】

ベンゼンヘキサクロライドC6H6Cl6の略称。化学名は,ヘキサクロロシクロヘキサン。有機塩素系殺虫剤の一種。多くの立体異性体があり,γ異性体の殺虫力が最も大。γ-BHCの含量99%以上に精製したものをリンデンという。広範な害虫に有効だが,残留毒性が強く,日本では1969年ころ牛乳などが高濃度に汚染されていることがわかり,1971年使用禁止。(図)
→関連項目殺虫剤有機塩素化合物

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「BHC」の意味・わかりやすい解説

BHC
ビーエイチシー
benzene hexachloride

C6H6Cl6 。1分子のベンゼンに6原子の塩素が付加したもので,殺虫剤として広く用いられた。有機塩素系剤。 BHCには7種 ( α~θ ) が知られている。このうち γ-BHC の殺虫性が顕著であり,農薬リンデンは γ- 体を 99%以上も含むものである。白色粉末で特異臭をもつ。工業的にはベンゼンに紫外線を照射しながら塩素を吸収させて製造する。安価で強力な殺虫性があるため日本では農薬として広く用いられていた。しかし大量に用いたため残留が問題となり,その製造と使用が中止された。

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