Alport症候群

内科学 第10版 「Alport症候群」の解説

Alport症候群(遺伝性腎疾患)

概念・分類
 1927年にAlportにより提唱された,難聴や視力障害を伴う遺伝性の糸球体腎炎である.X染色体優性遺伝(85%),常染色体劣性遺伝(10%),常染色体優性遺伝に分類される.
原因・病因
 糸球体基底膜GBM)の緻密層のおもな構成成分であるⅣ型コラーゲンのα鎖の遺伝子変異が原因である.6つのα鎖のうち,α1鎖とα2鎖をコードする遺伝子COL4A1とCOL4A2は13番染色体に,α3鎖とα4鎖をコードする遺伝子COL4A3とCOL4A4は2番染色体に,α5鎖とα6鎖をコードする遺伝子COL4A5とCOL4A6はX染色体に局在する.3本のα鎖のcollagenous domain(glycine-X-Y配列)が三重らせん構造により重合し1分子を形成する.分子間のS-S結合によりN末端の7S domainは四量体を,C末端のNC1(non-collagenous)domainは二量体を形成し,網目状構造をとる.全身に広く発現するα1鎖とα2鎖と異なり,α3~α5鎖は基底膜に限局しており,その異常がAlport症候群の原因となる.COL4A5の遺伝子変異によるX染色体優性遺伝が最も多い.COL4A5とCOL4A6両遺伝子の欠失では食道平滑筋腫を合併する.COL4A3あるいはCOL4A4の遺伝子変異は常染色体劣性の原因となる.
発生率
 5000~10000人に1人と推定される.
病理
1)光顕所見:
初期は腎糸球体に軽度のメサンギウム細胞や基質の増加を認める.進行すると増殖性病変や硬化病変が出現する.尿細管間質には泡沫細胞の集簇を認める.
2)蛍光所見:
糸球体にIgA,IgM,C3の沈着を認めることがある.
3)電顕所見:
GBMの不規則な肥厚と菲薄化を認める(図11-5-1).緻密層の多層化(lamellation)や断裂,異常顆粒構造なども特徴的である.
4)Ⅳ型コラーゲンα鎖モノクローナル抗体による免疫組織学的解析:
X染色体性遺伝の男性患者の多くはα5鎖だけでなく,α3鎖,α4鎖もGBMに染色されない.Bowman囊基底膜だけに染まるα6鎖も消失する.女性患者ではα3~α5鎖がモザイク状にGBMに染まる.これに対して常染色体劣性患者ではGBMのα3~α5鎖は染色されないが,Bowman囊基底膜のα5鎖とα6鎖は正常である.
病態生理
 異常なα鎖がほかの2本のα鎖との三重らせん構造を形成できずに基底膜が破綻すると,血尿・蛋白尿が出現し,腎機能障害に進展する.Ⅳ型コラーゲンα3鎖,α4鎖,α5鎖は,GBMだけでなく,皮膚,血管,水晶体被膜,肺胞基底膜,内耳蝸牛などにも発現しており,その異常は多彩な臨床症状を起こす.
臨床症状・検査成績・経過・予後
1)腎障害:
多くは生後間もない頃から顕微鏡的血尿が認められる.加齢とともに蛋白尿も加わり,ネフローゼ症候群を呈することもある.X染色体性の男性患者は発症も早く進行性に腎機能が低下し,多くは30歳代までに末期腎不全に至る.X染色体性の女性患者の腎機能は比較的保たれ,軽度の血尿,蛋白尿のみにとどまることが多い.
2)聴力障害:
30~40%に両側性進行性の感音性難聴を認める.
3)眼症状:
円錐水晶体,水晶体脱臼,皮質部白内障などを認める.
診断
 ①尿または末期腎不全の家族歴,②基底膜の特徴的な電顕所見,③進行性の高音性感音性難聴,④眼症状,のうち3つを満たすものをAlport症候群と診断する.③④を伴わない患者でも特徴的な電顕所見や免疫組織学的解析により診断可能である.X染色体性遺伝であれば皮膚生検でのα5鎖の染色でも診断可能である.20歳未満の女性で腎機能障害を示す場合は常染色体劣性遺伝を疑う.
鑑別診断
 難聴などの腎外症状がない場合,糸球体基底膜菲薄化症候群IgA腎症を鑑別する.
治療
 確立された特異的治療はない.免疫抑制薬であるシクロスポリンの有用性が報告されている.腎機能障害には腎機能保護を目的とした保存的治療を行う.腎移植も行われるが,まれに移植後抗基底膜抗体糸球体腎炎を発症する(3~5%)ので,注意が必要である.[望月俊雄]
■文献
Appel GB, Radhakrishnan J, et al: Hereditary nephritis, including Alport syndrome. In : Brenner & Rector’s The Kidney (Brenner BM ed), 7th ed, pp1428-1430, Saunders, Philadelphia, 2004.
Callis L, Vila A, et al: Long-term effects of cyclosporine A in Alport's syndrome. Kidney Int, 55:1051-1056, 1999.
Hudson BG, Tryggvason K, et al: Alport's syndrome, Goodpasture's syndrome, and type IV collagen. N Engl J Med, 348: 2543-2556, 2003.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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