81/2(読み)はっかにぶんのいち(英語表記)Otto e mezzo

改訂新版 世界大百科事典 「81/2」の意味・わかりやすい解説

81/2 (はっかにぶんのいち)
Otto e mezzo

1963年製作のイタリア映画。モノクロ作品。フェデリコ・フェリーニ監督の9本目の作品だが,第1作の《寄席脚光》(1950)はアルベルト・ラットゥアーダとの共同監督であったので1/2と数え,総作品本数の81/2をそのまま題名にしたものである。この題名のつけ方からも,これが彼の過去の作品の総括であり,また新しい出発点であり,そのマニフェストであることがわかる。主人公はフェリーニの分身ともいうべき映画監督(マルチェロ・マストロヤンニ)で,成功と人気と金によって創作力をむしばまれ,次回作を前にして苦悩し生理的恐怖にさいなまれる状況が,現実記憶幻想を同質にあつかった画期的な映像操作によって描かれる。

 これはフェリーニにとっての〈ファウスト〉であり,〈ダンテ地獄篇の20世紀版〉であり,フェリーニの体験と思索を反映した〈自伝〉でもあると評され,オーソン・ウェルズ監督の《市民ケーン》(1941)以来の衝撃をもたらしたが,その〈映像表現と論理迷路〉の難解さのゆえに,モスクワ映画祭では15人の審査員のうち,西ヨーロッパ側は〈文句なしの最高傑作〉として推し,東ヨーロッパ側の8人は〈形式的な実験におぼれた個人主義芸術〉と批判して大論争になった。結局,主催国ソビエトの譲歩とあっせんによって収拾され,グランプリがあたえられたといわれる。アメリカのアカデミー外国語映画賞も受賞。なお,オリジナル版は188分を162分にしたもので,外国版はさらに短縮して138分となっている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の81/2の言及

【フェリーニ】より

…アカデミー外国語映画賞を受賞した)は〈象徴的ネオレアリズモ〉とか〈抒情的ネオレアリズモ〉とよばれるほど従来の〈ネオレアリズモ〉を変えた作品であった。その後の作品は一貫して,自伝的な《青春群像》(1953)以来の私映画的な方向に向かい,映画監督であるみずからの苦悩を映像化したともいえる《81/2》(1963)で頂点に達し,それと同時に題名に〈フェリーニの〉と付すことに示されるように,映画による個人史,告白録,省察録,回想録,情念のスペクタクルといった形で《フェリーニのローマ》(1973),《フェリーニのアマルコルド》(1974)等々をつくって,映画史上類を見ない壮大な〈個人映画〉の系譜を築いた。 〈ほら吹き〉で通り,みずからも〈誠実なうそつき〉を任ずるだけあって,その経歴は真偽入り混って明らかではないが,北イタリアのリミニに生まれ,幼児からサーカス好きで,早くから家出し,ローマ大学に在籍したものの,もっぱら風刺画や似顔絵をかいて,自堕落な生活を送り,しだいに旅回りの劇団に身を投ずるようになった。…

※「81/2」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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