鼻疽・類鼻疽

内科学 第10版 「鼻疽・類鼻疽」の解説

鼻疽・類鼻疽(Gram 陰性悍菌感染症)

(18)鼻疽(glanders)・類鼻疽(melioidosis:メリオイドーシス)
定義・概念
 鼻疽菌(Burkholderia mallei)と類鼻疽菌(Burkholderia pseudomallei)は90%以上の染色体の相同性を示し細菌学的には類似した菌種であるが,鼻疽菌は鼻疽,類鼻疽菌は類鼻疽を引き起こす.いずれも東南アジアなどの熱帯・亜熱帯地域に分布する好気性菌のGram陰性桿菌で,人獣共通感染症を起こす.
原因・病因
 鼻疽菌はおもにウマロバに感染し,ヒトはそれらの動物に接触することで感染する.一方,類鼻疽菌は土壌や池の水など環境中に多く存在し,ときに動物にも感染するが,ヒトは動物を介さず感染することが多い.なお鼻疽菌は運動性がなく,類鼻疽菌は鞭毛を発現し運動性を示す.
疫学・統計的事項
 鼻疽・類鼻疽はアジア,アフリカ,中東地域などにおいて散発的に発生している.いずれの菌も生物兵器への応用を目的に研究が行われた過去があり,米国CDCはバイオテロ目的で使用される可能性が高い菌として,鼻疽菌と類鼻疽菌をカテゴリーBに分類している.
臨床症状
1)鼻疽:
鼻疽は致死的な感染から数年にわたる潜伏感染まで幅広い感染を引き起こす.急性感染として化膿性感染(創部感染,鼻粘膜などの潰瘍,多関節炎),呼吸器感染(肺炎肺膿瘍),敗血症が認められる.化膿性感染では肉芽腫性の病変をつくりやすく,潰瘍や区域性のリンパ節炎を伴うことが多い.局所感染に引き続いて敗血症を発症した場合,壊死性の皮膚の発疹とともにしばしばショックや多臓器不全に陥る.また慢性化膿性鼻疽として多発性の皮下,筋肉,および内臓膿瘍を伴う.
2)類鼻疽:
類鼻疽は,急性・慢性,局所性・全身性,さらに顕性・不顕性の広い範囲の感染形態から成り立っており,総称してメリオイドーシスとよばれている.なお類鼻疽は菌血症・急性敗血症型,肺型,局所型,および不顕性型の4種類の病型に分けられる.菌血症・急性敗血症型は,糖尿病や慢性腎疾患などの基礎疾患を有する例に起こりやすく,急激に発熱,悪寒,ショックを伴い,全身感染状態となる.肺型は軽度の気管支炎から壊死性の肺炎までさまざまであり,重症例では発熱,咳,痰に加えて血痰を伴う.局所型の多くは限局性の皮膚感染として発症し,区域性のリンパ節炎が認められる.不顕性型は無症候のまま感染が持続し,免疫能の低下などが誘因となって発症することが多く,ときに胸部X線の陰影をきっかけとして無症候性の肺感染が発見されることがある.
検査成績
 鼻疽,類鼻疽ともに血算では軽度から中等度の白血球数増加を認める.本疾患に特徴的な生化学的所見は認めない.胸部X線にて浸潤影,結節影,空洞性の変化などさまざまな所見が認められる.深部膿瘍がある場合は腹部超音波検査やCTで確認可能である.
診断
 まず東南アジアなど流行地域への渡航歴を確認する.血液,痰および膿分泌物などの培養で菌を分離できれば確定診断につながる.なお抗体価の測定による血清診断も可能である.
鑑別診断
 敗血症を伴う病型では,マラリアペストおよびほかの菌による敗血症との鑑別を要する.肺感染の場合は,ほかの細菌による肺膿瘍や結核と鑑別すべきである.
経過・予後
 感染防御能が低下している例では重篤な感染に陥りやすい.敗血症の場合,予後は不良である.ほかの病型は早期から適切な治療を受ければ予後は良好とされている.
治療・予防・リハビリテーション
 鼻疽に対してはアミノグリコシド,テトラサイクリン,ST合剤が有効である.類鼻疽にはカルバペネム,クロラムフェニコール,テトラサイクリン,ST合剤が推奨されているが,ST合剤への耐性株も報告されている.膿瘍のドレナージなど外科的処置も重要である.なお有効なワクチンは開発されていない.[松本哲哉]
■文献
Longo DL, et al ed: Harrison’s Principles of Internal Medicine, 18th ed, McGraw-Hill, 2011.
Mandel GL, Bennett JE, et al: Mandel, Douglas and Bennett’s Principle and Practice of Infectious Diseases, 7th ed, Elsevier Churchill Livingstone, 2009.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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