鼻中隔彎曲症(読み)びちゅうかくわんきょくしょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「鼻中隔彎曲症」の意味・わかりやすい解説

鼻中隔彎曲症
びちゅうかくわんきょくしょう

鼻腔(びくう)内を左右の二室に分けている中央の仕切り(鼻中隔)が著しく彎曲し、鼻閉(鼻づまり)などの症状がみられ、治療の対象となるものをいう。鼻中隔の彎曲は直立歩行の人間や類人猿に特有なもので、四足歩行の動物にはみられないといわれており、顔面骨と頭蓋骨(とうがいこつ)の発育過程に生ずる不調和が原因という説もある。小児では彎曲が少ないが、完全にまっすぐな鼻中隔をもつ成人はほとんどいない。機械的閉塞(へいそく)を引き起こすような著しい彎曲のみが症状を発現し、治療対象となるのである。彎曲をおこすような明らかな病歴がないことが多いが、外傷性のものでは彎曲が高度である。鼻中隔軟骨のみが彎曲していることも多いが、骨と軟骨との接合部や骨も彎曲することもある。症状は鼻閉で、ときに外鼻の形も変形して鼻背が曲がっている。しかし、外部の曲がりと鼻中隔の彎曲は、かならずしも一致しないことがある。鼻中隔が一側へ一つのカーブをつくって曲がるもの、二重に彎曲してS字状になっているもの、とげ状に突出しているものなどがある。とげ状の突出は、片側のみの場合と両側の場合とがある。ときには稜(りょう)状の突出(角張ったもの)もある。このような突出は骨と軟骨との接合部に生じるので、鼻中隔の比較的下部にある。

 鼻中隔彎曲症では鼻内の分泌物の排泄(はいせつ)が妨げられるので、鼻炎副鼻腔炎にかかりやすい。かかれば治癒が長引き、合併症として慢性化しやすく、凸面は外傷を受ける機会が多いため、しばしば鼻出血をおこす。凹側の鼻甲介は肥厚していることが多い。治療は、手術的に彎曲した軟骨や骨を粘膜下に切除する。

[河村正三]

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改訂新版 世界大百科事典 「鼻中隔彎曲症」の意味・わかりやすい解説

鼻中隔彎曲症 (びちゅうかくわんきょくしょう)
deviation of nasal septum

鼻中隔が彎(湾)曲しているのはヒト特有の現象で,出生時に外傷をうけた場合以外は新生児ではほとんどが鼻中隔はまっすぐであるが,成長につれて彎曲が起こり,成人では90%以上の人に程度の差はあれ鼻中隔に彎曲がみられる。このうち,鼻づまりや頭が重い感じなどの症状を訴える場合を鼻中隔彎曲症と呼ぶ。彎曲の原因は,鼻中隔軟骨の発育が旺盛であるにもかかわらず,直立歩行によって頭蓋重みがちょうどこの部位にかかり,上下方向の伸びが阻害されるためと考えられている。彎曲症では,肥厚性鼻炎や副鼻腔炎を合併しやすく,鼻血も出やすい。治療としては,鼻中隔の両側の粘膜を骨や軟骨からはがし,その間の曲がっている軟骨や骨の一部を切りとることによって鼻中隔をまっすぐにする手術が行われる。
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世界大百科事典(旧版)内の鼻中隔彎曲症の言及

【鼻血】より

…各年代を通じて男は女の約2倍の率を示すが,30~40歳の間に限って男と女の比が3対2となる。左右差はないが,鼻中隔彎曲(びちゆうかくわんきよく)症の凸側におきやすい。季節との関係では,春から夏,ことに5月と8月に多い。…

※「鼻中隔彎曲症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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