日本大百科全書(ニッポニカ) 「黒髪(地唄、長唄)」の意味・わかりやすい解説
黒髪(地唄、長唄)
くろかみ
地唄(じうた)、長唄の曲名。地唄は1801年(享和1)の文献に初出。作詞者不詳、初世湖出(こいで)市十郎作曲。長唄は初世桜田治助作詞、初世杵屋(きねや)佐吉作曲のめりやすもので、1784年(天明4)11月江戸中村座初演の歌舞伎(かぶき)狂言『大商蛭小島(おおあきないひるがこじま)』の二番目に用いたのが初め。伊東祐親(すけちか)の娘辰姫(たつひめ)は、源頼朝(よりとも)への恋を北条政子(まさこ)に譲り、2人を2階へあげるが、髪をすいているうちに嫉妬(しっと)に駆られて狂おしくなるという場面である。地唄も長唄も三味線は三下りの調弦。地唄に箏(こと)が入るときは低平調子。どちらの曲も旋律的には類似している。ただ地唄には「妻じゃというて」のあとに長い合の手が入る。歌詞の内容は、ひとり寝で寂しく夜を明かす女心のやるせなさを詠んだもの。地唄は舞を伴い、井上流は初世八千代振付け、山村流は初世友五郎振付け。下座のめりやすには胡弓(こきゅう)を併奏する場合が多い。
[茂手木潔子]